―移住に賭けた我らが世界― 第1章 草創期⑫

―移住に賭けた我らが世界― 第1章 草創期⑫
岸総理講演会開催時の委員長だった葛西清忠の回想録には講演会の話は載っていない(拓大「桂会通信」に掲載された回想録のコピー)

~もう一つの学生運動~ 日本学生海外移住連盟 外史

岸総理講演会顛末記 プロローグ 富田 眞三

 2009年1月、奇しくもその記事に出会った。ブラジルの邦字紙サンパウロ新聞(電子版)に「1955年創設された日本学生海外移住連盟の学生たちが59年には、南米を訪問し帰国した岸首相の自宅前に学生服姿で土下座していた。『ブラジルの話を学生にしていただきたい』という学生たちの陳情を快諾した岸首相は、講演会に出席したのをはじめ、第1回実習調査団の派遣費用を政府から支出するのに尽力してくれた」という記事が載ったのである。

 奇しくもとは、2009年が岸総理講演会開催から50年目だったからである。

 
 当時、筆者は学移連(日本学生海外移住連盟)の役員として、岸首相の講演会を企画実行したメンバーの一人だった。が、公道で土下座するような見っとも無い真似はしていない。

 アメリカ・テキサス在住の筆者は早速50年来の旧友であり、学移連の「生字引」である今村邦夫(日大OB)と連絡を取り、サンパウロ新聞の鈴木雅夫編集局長宛てに「たった3行の記事に複数の誤りがあります。以下、誤りを正すとともに真実を書いておきます。即ち岸総理ご自宅前で土下座した事実はなく、我々は自民党衆議院議員・中村寅太先生のご紹介によって岸総理を総理官邸にお訪ねして講演会の趣意書をお渡ししました。実習調査団の派遣費用云々も事実と違います」として、「学移連主催・岸総理講演会(昭和34年)の真実」と題した今村邦夫と筆者連名のメールに対して、同紙編集局長鈴木雅夫氏は、即日返答を寄せてくれた。実に誠実な対応と言える。

 なお、今村と筆者のメールの内容は次回の「岸総理講演会顛末記(1)」で詳しく記述する予定のため、ここでは割愛させて頂く。

 
 鈴木氏の返信にはこうあった。

 「私の書いた原稿に事実誤認があり、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。私は皆さんの後輩にあたり、関西大学ラテンアメリカ研究部に所属して、1970~74年、学移連活動に参加しておりました。73年、第4次海外学生総合実習調査団(第14次南米)の班長として1年間、サンパウロ新聞で実習をしたものです。私が原稿にした内容は、学生時代に先輩方から聞いた話だったのです。学移連創刊号、学移連30周年記念誌が日本の実家においてあるため、詳細な資料が手元になく、事実誤認をしてしまいました。お許しください。機会をみて、改めて事実を記載したいと思います。

 
 私が学生時代に活動したのは1970年から74年にかけてですので、学移連初期のことは分かりませんが、諸先輩から断片的に聞いている話だけでも興味深い話が多く、ぜひ、皆さん方が活字にして残していただきたいと思っております。

 「正史」が完成するのを楽しみにしております。

 今後ともご指導をよろしくお願い申し上げます。

 サンパウロ新聞社編集局長 鈴木 雅夫」

 
 帰国後の同年5月、調べてみると、首相講演会の件はすでに「学移連三十周年記念誌」に記述されており、他にも奥山幸猛(拓大)、筆者の実弟博義(早大 第9期学移連委員長)等の投稿が連盟史の一こまとして記録に残されていることが分かったが、後輩諸君は講演会当時、未だ大学入学前であったため、伝聞による知識しか無いのである。当事者であった、葛西清忠(拓大 第3、4、5期委員長)、羽嶋禎紀(早大 第6期委員長)の両君はともに今は亡き人である。

 となると、当時の事情を知る日本在住者は、今村と富田の二人だけになる。そこで筆者が今村の協力を得て、総理講演会開催時の生証人として、岸総理講演会実行委員一同の奮闘記を記録として残そう、ということになった。

 
 そして筆者は、サンパウロ新聞編集局長・鈴木雅夫氏に送った、「学移連主催・岸総理講演会の真実」を基に加筆し、更に後日連盟員が招待された、岸総理私邸に於ける、夕食会までの経緯も記した「同題名のレポート」を、2009年9月13日以降三回に分けて、筆者が運営するブログ・「アメリカ便り」に投稿したのである。

 
 さて、時は流れて8年後の昨年(2017年)6月、学移連の後輩であり、元連盟委員長の駒井明(工学院大 第21期)の紹介でサンパウロ新聞編集局長の鈴木雅夫と話す機会が出来た。その席上鈴木から「約束通り『岸講演会』について紙面を提供するので投稿して欲しい、という成行きとなったのはごく自然の流れだった。何しろ、出身大学は違っても同じ「学移連大学」(と我々OBは呼んでいる)卒業生同士なのである。

 
 素晴らしいことに、鈴木君はもっと大きな視点から、日本学生海外移住連盟は「もう一つの学生運動」であったとして、学移連OB諸君を取材することによって、サンパウロ新聞に「学移連外史」を連載したい、との企画を温めていたのだ。

 そのトップ・バッターとして不肖小生が、ブラジル日系社会で最も権威ある邦字紙のサンパウロ新聞に「岸総理講演会顛末記」を発表する機会を与えられたのは、望外の幸せであり、深く鈴木編集局長に感謝いたします。

 
 若かった我々が如何に情熱を傾け、無い知恵を絞って岸信介総理に南米事情講演会をお願いしたかをレポートしたい。

 筆者は講演会開催に汗を流した今村邦夫(日大)、山本博康(東京外語大)、ペルー在住の井上順八(拓大)、ブラジル在住の大束員昭(神奈川大)並びに故葛西清忠(拓大)始めとする泉下の菊池延、芝田可行(共に東農大)、石原寿一、羽嶋貞紀(共に早大)、ら仲間たちの「総理講演会の顛末を正確に皆様に伝えて欲しい」との思いを胆に銘じてこの「顛末記」を書かせていただきたい、と思う。それにつけても、サンパウロ新聞が9年越しの約束を果たしてくれることになったことは、実に喜ばしい出来事である。

 
 では、次号から我々学移連がどのように、岸総理に「南米事情講演会」開催をお願いしたかをレポートしたい。(敬称略、つづく)

     ◎

 題字の「日本学生海外移住連盟」の文字は第2代顧問会会長・後藤連一氏(日本大学教授)が揮ごうしたもので、長年学移連事務所に掲げられていた表札。

2018年4月20日付

コメント0

コメントを書く

Login

Welcome! Login in to your account

Remember me Lost your password?

Lost Password