「人の移動と地域の日本語教育」 帰国子女らと家族をめぐって 伯日米で直面する課題を共有

「人の移動と地域の日本語教育」 帰国子女らと家族をめぐって 伯日米で直面する課題を共有
中川氏、野山氏、カルダー氏、松原氏(写真後方左から)

 国際交流基金サンパウロ(聖)日本文化センター(洲崎勝所長)とサンパウロ大学(USP)日本語・日本文学・日本文化大学院プログラム共催の講演会「人の移動と地域の日本語教育―帰国生、帰国・海外子女、移動する子どもとその家族をめぐって―」が12月21日、聖市ジャパンハウスのセミナールームで開催された。カエルプロジェクトの中川郷子臨床心理士、国立国語研究所の野山広准教授、プリンストン日本語学校のカルダー淑子理事が講演を行い、それぞれブラジル、日本、米国の日本語教育が直面している課題やそれぞれの活動を具体的な事例を挙げながら報告し、意見を交えた。国境を移動する人々の子弟の言語教育の、伯日米の専門家が揃った貴重な同会には、聖市や近郊の日本語教師を中心に約35人が詰めかけ、言語教育に付随する多面的な課題や取り組みを共有した。

 最初に講演に立ったのは中川氏。カエルプロジェクトは、日本からブラジルへの帰国子弟の健全な成長に向け、社会・学校教育への編入を可能にさせることを目的に、「帰る、変える、蛙(成長する)」の3つの意味を込めた取り組みと紹介。聖市教育庁の協力とブラジル三井物産基金の協賛の下、聖州内29の学校などで心理学、教育心理学的なオリエンテーションを実施する他、ポ語教室、電話などを通じた相談も行い、帰国子弟のケアを続けている。中川氏は毎年、日本国内各地の伯人、日系ブラジル人の集住地にも足を運んで指導や相談を行い、学校現場、行政関係機関も訪問して研究や意見交換をしているという。

 現在抱える課題として、聖市内の同プロジェクトのセンターになかなか出てこない子弟の巡回の困難さを指摘。また、ポ語の発達に悩む子弟がせっかく上達しても、文化の違いに直面して殻に閉じこもってしまったケースや、日本でも伯国でも外国人扱いされる子弟の交錯したアイデンティティー、ポ語習得に向けた動機付けの大変さ、家庭での言語教育への無理解、言語力や学習度に合わせず、年齢で義務教育を済ませてしまう伯国の教育制度の問題などの事例も紹介。言語のみならず、文化、アイデンティティー、帰属意識、家庭環境、学校制度など多面的な課題が複合していると説明した。

 続く野山氏は、日本に暮らす、中国語、マレー語、韓国語、ポルトガル語、タガログ語などの外国語話者の日本語教育の事例を紹介した。秋田県の外国語話者散在地域と、群馬県のポルトガル語話者集住地域を評価。散在地域では、丁寧な言葉使いのみなど、一定の表現方法や語彙(ごい)力でも豊かな生活が送れるようになると日本語習得が頭打ちになる傾向や、集住地域では外国語で生活が済んでしまうが、日ポ通訳など、両語を話せる利点を示すモデルとなる人物も見つかりやすく、日本語習得の動機が芽生えるケースも紹介した。

 また、同研究所の日本語教室の生徒を対象にしたバスツアーや花見、盆踊りなどを例に、日本の慣習や地域との交流、文化理解の実践も紹介した。加えてリテラシー(読み書き能力)の調査が日本で十分に行われていないことも指摘した他、日本の学校や海外の補習校での経験を参照しながら、日本語教育へ理解ある家庭環境作りや、言語習得へのきっかけ作りの重要性も説くなどした。

 カルダー氏は、日米間の戦争や、その後の地位向上に時間がかかった(ている)アメリカ日本移民の歴史にも触れ、「4世、5世は日本語に対して、わだかまりがある」と米国独特の背景を紹介した。そうした歴史の長い日系子弟と、戦後の移住者の子弟、帰国を前提とする駐在員の子弟などが入り交じり、子弟の渡米年齢も含めて多様化が進み、日本語を継承語、母語、外国語とする境界が崩れてきているとした。

 米国の日本語教育で大きな役割を占める補習校がそうした課題に多様に対応をし始めている事例も挙げたが、カリキュラムのモデルが少ない、教師の不足、運営資金の問題、学校・教師の孤立などを指摘した。そうした中、継承日本語教育にあたる教師の研修と情報交換を目的とした「MHB(母語継承語バイリンガル教育研究会)海外継承日本語部会」(https://sites.google.com/site/keishougo/mission)を2012年に設立したと語り、ブラジルの日本語教育関係者の参加も呼びかけた。

 その後の第2部では、USPの松原礼子教授が進行役を務め、会場からは日本語教育実践に関するより具体的な質問などが挙がり、それぞれが意見を交わした。

 前列で熱心に聴講していたブラジル日本語センターの鶴田広子教務主任は、「日本語だけでなく、生徒の(文化、家庭、精神的な要因なども含めた)全体を評価することがすごく大事だと教えていただいた。(今後も)そういう対応のできる日本語教師を育てていきたいと思いました。すごく参考になりました」と充実した表情を浮かべていた。

2018年1月13日付

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