「老い」について考える 第1部①

介護を受ける高齢者

ブラジルでの孤独な老後
家族の見舞いが無い要介護高齢者

「老い」とは、本人はもちろんのこと家族にとっても大きなテーマであり、社会や国家の問題でもある。健康、介護、家族、年金、葬式、性、相続など老いを中軸として提起される諸問題は枚挙にいとまがない。現在の日系社会の問題は、すべて老いに集約されると言っても過言ではない。老いに向き合うことは、自らと向き合うことにほかならない。本紙では4部構成で連載を組み、ブラジル日系社及び日本国内で抱える「老い」に関連する事柄の一部を追ってみた。(本紙編集部)

ある特別養護老人ホームには一切、家族の見舞いがない老婆がいる。南カヨさん(仮名、89)だ。南さんは耳が遠く、認知症も進行している。食事や入浴、排泄も1人ではできない。いわゆる要介護高齢者だ。12年前に入居しており、ホームの最古参に近い。
南さんは1923年生まれ。33年、10歳で渡伯し、サンパウロ州バウルー近くのコーヒー農園に入った。結婚した夫は三十数年前に先立った。妹がおり、妹夫婦もかつて南さんと一緒に別の施設に入っていたが、彼らは南さんが現在のホームに入る前に亡くなっている。彼女には娘の涼子さん(45)がいるが、長い間日本に行ったきり戻って来ない。

記者が南さんを訪ねると、職員に車椅子を押されて応接室に現れた。この日、気温は35度まで上昇したが、南さんは長袖と帽子姿。緊張しているのか、何杯も水を飲みながらポツリポツリと質問に答えてくれた。「娘は1度だけ見舞いに来た。でも、何も言わずにすぐに帰った。日本のどこで何をしているのか知らない。結婚しているかどうかも」とつらそうに話し、「寂しいよ」とつぶやいた。
それでも南さんが所属している県人会の会員は、年に1度の頻度で南さんを見舞う。ただ「涼子さんは日本のどこにいて何をしているのか知らないが、もう何年もブラジルに帰ってきていない」という。今、涼子さんを探す手掛かりはない。おそらく、カヨさんが亡くなるまでは、施設も連絡はしないだろう。

県人会員らによると南さんは施設に入る前に自宅を売り、その金で施設の利用料金を支払っている。もはや彼女に身寄りはなく、献身的に支え、心配してくれるのは施設の職員だけだ。
南さんが入居している老人ホームの施設長は「入居者の10~20%が、誰も見舞いに来ない孤独な人です」と明かす。
さまざまな団体が存在し、あらゆる活動が行われているブラジルの日系コロニアだが、その共同体の網の目からこぼれ落ちた人はどのような最期を迎えるのだろうか。南さんには幸い家があり、それを売った金で施設に入ることができたため、まだソルチ(幸運)とも言える。

1世を中心に増え続ける孤独な老人。移民としてブラジルに渡り、カフェ農園などで苦汁をなめながらも、立派に子どもを育てあげた。しかし、そんな彼らを待っていたのは、異国での孤独な老後だった。どうしてこのようになってしまったのだろうか。今、南さんは手芸の時間が唯一の楽しみとなっている。
施設を運営する関係者は「戦前に来た1世はブラジルで一定期間働いた後に日本に帰ることを考えていた。中には結婚したり友人を作ったりするなどの横のつながりをうまく築けなかった人もいるし、家庭の問題ももちろんあっただろう」と移民の「老い」についての特徴を話す。

移民たちの老後は誰が支えるのだろうか。南さんに「娘さんにブラジルに戻ってきてほしいですか」と聞くと、しばらく考えた後、静かに首を縦に振った。(つづく、植木修平記者)

2013年5月10日付

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