【2011年新春特集】ブラジル 2011年の展望

新春、ジルマ氏の舵取りに期待

2011年。政権交代で幕を開けるブラジルは、ドラスティックな1年が待ち受けている。2期8年を務め、退任間際でも80%台という驚異の支持を集めたルーラ氏の後は、同氏が政治後見役を務めたジルマ・ロウセフ氏(63)が引き継ぐ。第41代大統領のジルマ氏は、伯国初の女性大統領だ。昨年12月のIbope調査では62%が支持。ジルマ氏は1億9千万人の期待を一身に受け、初めての政権運営に挑戦する。
当選後も「未知数」とされたジルマ氏の政治手腕と指導力。基本的にルーラ政権の政策を継承し、経済発展と貧困改善を最優先とする方針だ。英紙の2010年回顧では、「世界で最も権力のある女性」とされた。伯国民だけでなく、国際社会もジルマ氏の一挙一動に注視している。

◇前政権

圧倒的な支持を集めたルーラ政権は、大量の雇用創出と所得増、生産部門と輸出を中心とする好調な国内経済に後押しされた。
同政権下の正規・新規雇用は1400万人。失業率は10%台から下がり続け、昨年11月には5・7%の史上最低水準を記録した。200レアルだった最低賃金は510レアルとなり、収入増の相乗効果で中所得層の「Cクラス」が急増。09年度には過半数(53・6%)を占めるまでとなった。

国内経済は好調な生産部門と輸出が支え、過去8年の国内総生産(GDP)の平均伸び率は世界9位の4%。世界金融危機の影響で09年こそ低迷したものの、GDPは世界ランキング12位から8位に上昇し、国際通貨基金(IMF)の今年度予想は7位とされた。
悪夢だったインフレは、8年前(12・53%)から半減。物価の安定は、通貨レアルの価値上昇と金融システムにおけるクレジット拡大につながった。対ドル為替は1ドル3・5レアルから1・7レアル台となった。
すべてが華々しく聞こえるようだが、急成長の影には課題が山積している。

◇残された課題

昨年11月のダッタ・フォーリャ調査で、ルーラ政権の不満として挙がったのは「保健」「治安」「教育」。依然として世界一の税率(GDP比24%)は国民生活を圧迫し、8年前から大幅に下がったとは言え、実質4・8%の高金利もマイナス要因の一つだ。
保健分野は、乳幼児死亡率(IMR)や食糧難が改善されたが、デング熱の登録患者が100万人、下水設備の未到達率2割、飢餓人口5・8%などの統計事実は、伯国が先進国入りするには程遠いことを物語っている。

教育に関しては、経済開発協力機構(OECD)の15歳の学力調査(PISA)で読解力、数学的応用力ともに最低レベル。成人の高等教育修了率がわずか11%にとどまり、非識字率も9・7%と依然として高い。
国民の半数が居住地域の治安に不安を抱き、殺人発生率も10万人につき  件と世界で12番目の多さだ。昨年11月末に始まったリオ州の麻薬組織掃討作戦は、ファベーラの銃撃戦で一般人含む数十人が死亡。装甲車や狙撃ヘリが出動する衝撃的な映像が世界中に流れ、サッカー・ワールドカップ(W杯)と五輪を控えるリオへの懸念が国際社会で高まった。

ジルマ氏は、これら一つひとつの課題に取り組まなければならない。

◇経済政策

大統領選中も当選後も、現政権の政策踏襲以外に具体的な政策を示さなかったジルマ氏。当選は、現状に満足の国民が「安心感」を求め、現状維持を選択した結果だとも解釈できる。それだけに、今後の采配いかんで総すかんを食うことも予想される。
自政権の閣僚人事で頭を悩ませたジルマ氏は、中核を担うことになる経済班から固めていった。財務相に現職のギド・マンテガ氏、中央銀行総裁にはアレシャンドレ・トンビニ氏を新たに迎え、企画・予算管理相には腹心のミリアン・ベルシオール氏を就けた。

政策金利が年率10・75%と高い伯国には、短期投機資金が大量に流れ込み、通貨レアル高の進行が止まらない。ジルマ氏は、抑制に積極的に取り 組んだ国庫庁長官を留任し、ルーラ政権からの主要な経済閣僚らで脇を固めた。しかし、「14年までにインフレプラス2%」の大幅利下げ以外の具体案を示さ ず、経済政策には不透明感がつきまとう。

◇外交

中国、インドなどとともに新興4か国の一角を占め、20か国・地域(G20)主要メンバーとしても国際社会で存在感を強めてきたルーラ政権。イラン核問題では調停役も務め、しがらみのない多角外交が、国際社会でも評価されてきた。
欧米と一線を画す「独自外交」で、ルーラ氏と歩調が合っていたアモリン外相の後任はアントニオ・パトリオッタ氏。駐米大使などを歴任し、親米派で知られる同氏の起用は、反米左派的とされた前政権のカラーを塗り替える意図がありそうだ。

ジルマ氏はかねて、前政権が築いたイランとの関係に疑問を呈しており、姦通罪の女性に石打刑を言い渡した同国政府の人権意識についても厳しい批 判を浴びせている。こうしたジルマ氏の態度は欧米諸国には歓迎されているが、キューバやベネズエラなど中南米の反米左派諸国との付き合い方が変わる可能性 もあり、大きな方向転換が予想される。

◇交通インフラ

14年にサッカー・ワールドカップ(W杯)、16年にリオ五輪を控える伯国は、交通インフラの整備が急務。W杯時には50万人の外国人観光客が来伯する見通しで、国内の空の交通移動は300万人以上にも上る予想だ。 (10貢につづく) 
一方、試合開催予定の12都市中8都市の空港は既に運用能力オーバー。ブラジル・サッカー連盟(CBF)も「大会準備の最優先事項」とするなど、空港整備は何よりもの急務だ。

ジルマ氏は、空港の運営管理を従来の国防省管轄から外し、新たに設置する官庁に任せたい意向。55億6千万レアルを投資する空港事業をスムーズに運ぶだけでなく、国際社会が懸念を示す伯国W杯での「空港崩壊」リスクを避ける狙いだ。
他方、五輪までの開通を目指すリオ―サンパウロ―カンピーナス間の高速鉄道計画は、昨年12月に予定されていた事業入札が今年4月に延期され、総事業費331億レアルの大型案件は、採算性や事業リスクへの懸念が払拭できず、国内・外国企業ともに敬遠された。

新幹線で輸出を図る三井物産や三菱重工業などの日本企業連合は、条件変更を求めているが、ジルマ氏は建設推進派であっても、国民負担増につながりかねない譲歩をするとは考えにくく、むしろ強硬姿勢を貫くとの指摘も挙がっている。
ただでさえ遅れが目立つ同事業は、このままでは計画倒れともなりかねない。

◇「鉄の女」

「2010年の戦士」としてジルマ氏を取り上げた英インデペンデント紙(電子版)は、左翼ゲリラ運動中のジルマ氏を写真掲載し、「かつてのゲリラ戦士、世界で最も権力のある女性に」と紹介した。
押しが強く、短気。それでも、効率や正確さを重視する仕事ぶりがルーラ大統領に気に入られ、伯国初の女性大統領に上り詰めた。元夫も「求める水準が何でも高い」と舌を巻き、「鉄の女」として知られる。
ブルガリア移民の父と元教師の母を持ち、比較的裕福な家庭で育った。学生時代、軍事政権の打倒を目指す左翼ゲリラ運動に身を投じ、約3年間投獄された。所属した組織の情報を求める当局から、電気ショックで拷問を受けたが、口を割らなかったという。

2011年1月1日付

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