ブラジルの未来を切り開く日系人経営者(66)

ブラジルの未来を切り開く日系人経営者

まえがき-ベレン圏の日系人経営者連載を前に

2年後にアマゾン移住90周年を迎える
パラー州とベレン及び日系社会の概要

 今回はパラー州ベレン経済圏の日系人経営者を紹介したい。1929年にトメアス(ベレンから南に250キロ)に日本から集団移住した家族がアマゾン移住の第一歩だった。54年にアマゾンを取材した評論家の大宅壮一は「アマゾンは緑の地獄」と表現したが、東京農大拓殖科教授の杉野忠夫は「アマゾンは緑の天国」と直ちに反論した。それから63年を得たいま、アマゾンは杉野が喝破した通りの歴史を刻んでいる。来年の18年にブラジル日本移民110周年、19年にはアマゾン移民90周年を迎えるが、広大なアマゾン地域におけるこの記念祭典はベレンが中心になる。中高層ビルやマンションが林立する近代都市・ベレンは、トメアスとともにアマゾン拓魂と日本の心、そして伝統的な日本精神、をバックボーンにした日系移住者が数多く住んでいる地域としても有名だ。今回取材をした経営者は、サンパウロ州やパラナ州の日系人経営者とはまた異なり、アマゾンで鍛え上げた独自の移住文化と移住精神を持っている。この点も日系人経営者に取材した。そこでこの連載を前にパラー州とベレン及び当地の日系社会の概要を紹介しておきたい。

◆パラー州の概要と日系社会
 パラー州は豊富な天然資源や鉱物資源を持ち、熱帯果樹や農産物の産出州であり、アマゾン川河口に立地するヨーロッパへの物流拠点でもある。現在15兆円規模の予算で、交通網や港湾などのインフラ整備、工業化、農畜産物振興、観光振興などを加速させている。世界最大の鉄鉱石埋蔵量を持つカラジャス鉱山を持つ州であり、日本企業が参加するアルミ生産でも知られる。木材輸出量はブラジル全体の20%など、持てる豊富な資源州で知られる。ブラジル国土全体の約17%、アマゾン地域の26%を占める、アマゾナス州とともにブラジル最大級の州である。州都ベレンはほほ赤道直下でアマゾン川の河口に位置し人口約140万人。北伯ではマナウスとともにブラジル北部の中心都市で知られる

 北伯に暮らす日系人5万人のうち、パラー州はその70%に当たる3・5万人が住み、サンパウロ州、パラナ州に続いて3番目に日系人が多い州である。べレンには約4000人の日系人や日本人が住み、各種日系団体や日系人による文化、福祉、教育なども充実し完璧な日系社会が構築されている。こうしたベレンにある公的な機関は同時に、アマゾン川全流域に住む日系人や北伯日系社会の中心的な立場と役割も担っている。

 日本政府やJICAも全面的に支援している地域であり、パラー州政府やベレン市とも極めて良好な関係が築かれている。経済関係分野では日本とも関係が深くパラー州輸出全体の約8%を占めている。(文責 カンノエージェンシー代表 菅野英明)


 この項以降は外務省を代表するブラジル通の小林雅彦氏(ポルトアレグレ総領事館を第1歩に、1991年―96年・サンパウロ総領事館(領事)、2009年―14年・同総領事館(最終ポストは首席領事)、14年から今年3月までベレン領事事務所(領事兼所長)に在職し、その経験を踏まえて特別寄稿をお願いした。

◆不況が直撃するパラー州経済の現状

 パラー州においては様々な経済部門に影響を及ぼしている。小売部門と土木工事部門では雇用は今年の上半期で昨年同期間に比べマイナス1・5%であり、約5000人が失業した(DIEESE出典)。パラー州の州都ベレンでは新車販売率が今年の6か月間で昨年同期間に比べ17%減であった(DIEESE出典)

◆パラー州の業種別景気動向

1 小売業
 ブラジル地理統計院(IBGE)の9月現在のパラー州における小売り部門実績は本年9か月間の累積はマイナス12・4%であったが、スーパーマーケット業界は今年の9カ月間で売上高が昨年の同期間に比べ1・21%増であった。

2 胡椒 1位
 全国における胡椒栽培産地でパラー州は1位。13年における生産量は3万885トンであった。(出典・パラー州調査財団―FAPESPA)

3 ココア 2位
 全国におけるココア栽培産地でパラー州は2位。13年における生産量は7万9千トンであった。(出典・パラー州調査財団―FAPESPA)

4 果樹 
 パラー州は第5位で州における果樹の中でバナナが最も多く生産されている。13年の統計ではブラジルにおける生産地で5位であった。生産量は58万トン。(出典・パラー州農牧畜開発局)

5 花卉栽培
 州において過去10年間で花卉生産は60万本から150万本に増産し、生産者は99名から約300名になった。(出典・パラー州農牧畜開発局)

6 天然資源・鉄鉱石生産量3位 
 パラー州で生産された鉱物資源の14年における輸出額は93億ドルであった。同州は全国で鉄鉱石生産量ではミナス・ジェライス州、南マットグロッソ州について3位で14年の統計では全国生産量(4億1100万トン)の29%を占めた。(出典・ブラジル鉱物生産院―DNPM)

7 植林
 パラー連邦大学の調査によると08年から12年にかけて312件の植林事業の申請が州環境局へ提出された。州における植林事業は無差別な鉱物採取や牧畜業の進行を抑制する重要な業種となっている。パラー州政府も市町村の植林事業を奨励するため11年に「緑の自治体」と称する制度を設けた。

◆日本とパラー州との現状
 1929年に始まるトメアス(当時はアカラ)移住地への集団移住を嚆矢とする日本人アマゾン移住の歴史を背景に、パラー州官民は、日本人移住者の、農業をはじめとする産業貢献を高く評価しており、対日感情はきわめて良好である。

 また、戦後は、ナショナル・プロジェクトとして実施された「カラジャス鉄鉱山開発」や「アマゾン・アルミ・プロジェクト」の実施により、日本とパラー州の経済関係は緊密化した。カラジャス鉱山の生産量の13%程度、合弁企業であるアルブラス社が生産するアルミの約半分は、日本に輸出されている。

 現在、円借款による「ベレン都市圏バス交通システム」計画を実施中であるほか、農業、中小企業、道路管理、観光等の分野で年間5~6名のJICA研修員受入れを実施中である。17年2月には、北岡JICA理事長がパラー州を訪問し、州政府と今後の協力に関する意見交換を実施した。

 15年には、日本ブラジル外交関係樹立120周年を記念する事業が全伯で行われた。パラー州においては、州政府の全面的な協力を得て、約40万人が訪れたフェイラ・ド・リブロ(ブック・フェアー)において、日本がテーマ国となり、様々な文化交流事業が実施され、多くの人が参加した。同年11月には、秋篠宮同妃両殿下がパラー州を訪問され、州官民や日系社会の大きな歓迎を受けられた。

◆天皇家と北伯日系コロニア社会との関係

 皇族のパラー州ご訪問の歴史(訪問地はいずれもベレン市)
 1978年(日本人ブラジル移住70周年) 皇太子同妃両殿下(現天皇皇后両陛下)
 88年(日本人ブラジル移住80周年) 礼宮殿下(現秋篠宮殿下)
 97年5月 天皇皇后両陛下
 2015年(日伯外交関係樹立120周年) 秋篠宮同妃両殿下

 パラー州の日系社会は、集団移住地を起源として発達したものである。移住地においては、日本式の生活を基本として、日本語学校において日本語の教育やしつけが行われてきた。従って、移住地における皇室への敬愛の念は、日本国内と同様に維持されてきたので、現在でも皇室に対する日系社会の思いはきわめて熱いものがある。15年に、秋篠宮同妃両殿下が訪問された際、汎アマゾニア日伯協会において行われた両殿下の歓迎会においては、日系社会の代表者はじめ約700人が参加し、両殿下を歓迎した。

◆北伯日系コロニア社会の行方とその展望(小林所感)

 パラー州の日系社会においても、若い世代の日系社会・日系団体離れが起きている。また、約90年の歴史を有する日系社会においては、一世移住者の高齢化も顕著である。他方、各地において行われる「日本祭り」は、年々その内容も充実してきており、今後、地域の非日系人も巻き込みながら、日本を発信する主体としての役割が期待される。

 幸い日系社会のまとめ役的機関である汎アマゾニア日伯協会や医療・福祉を担当するアマゾニア日伯援護協会においては、指導層の若い世代への世代交代が順調に進んでいることから、今後これらの機関が中心となってこれらの日系社会が抱える諸課題に向き合っていく体制はできていると感じている。

2017年3月4日付

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