ブラジルの未来を切り開く日系人経営者(74)㊤ 山口 カルロス 彰男

ブラジルの未来を切り開く日系人経営者

セラードの大地から誕生した二世経営者
スペシャリティコーヒーで日伯間を結ぶ

セラード珈琲 山口 カルロス 彰男 社長

 コーヒー王国でもあるブラジルは世界生産の33%を占め世界最大の輸出量(全体の25%)を誇る大国だ。全生産量の半分を占めるミナスジェライス州など内陸部を中心に栽培総面積は2万7000平方キロメートル、60億本のコーヒー樹が植えられその生産量は296万トンを超える。この中で、同州のセラード産コーヒーはフランスのシャンパーンがそうであるように、ミナスジェライス州の灌木だらけだった荒地(セラード)が、土壌改良され農地になったセラード地域で生育し収穫された高品質のアラビカコーヒーを、ブラジル政府が国際基準のもとに2005年に『セラード地域コーヒー』として命名することを正式に認めたブランドコーヒーだ。

 今回取材した株式会社セラード珈琲(本社・東京都港区新橋)社長の山口カルロス彰男はブラジル生まれの2世だが、農園主だった父・故山口節夫と同社の創業社長だった故上原勇作とともに3人が力を合わせてセラード産コーヒーの品質向上に努めた。この結果、高品質なセラードコーヒーの生豆栽培に成功しこのコーヒーを1987年に日本に最初に輸出した功労者だ。いまでも1年のうち、半年は日本、半年はブラジルという仕事漬けの毎日が続いている。会社創業は88年でコーヒー専門の輸入販売会社として来年は創業30周年を迎える。山口が2008年に2代目社長に就任してからはブラジルや世界各地のスペシャリティコーヒー(最高品質コーヒーのことで日本スペシャリティコーヒー協会の定義では『消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること』)だけを取扱っている。

 そこでこの事業の中心に据えているスぺシャリティコーヒーに対する専門家の声を聞いてみよう。coffeemecca編集部のホームページによると「ブラジルで生産されるコーヒー豆の約70%がアラビカ種で残りがロブスタ種になります。アラビカ種ではブルボン種やムンドノーボ種など複数種を栽培しています。アラビカ種のコーヒー豆は他の品種にはない豊かな風味と酸味を持っています。そして焙煎によって香りや甘みが引き出されていきます。その中でもより豊かな香り、甘みを持つものはスペシャリティコーヒーとして評価が高くなっています。また、カフェインの含有量はロブスタ種のおよそ半分程度になります」とコーヒー品質に対する高い評価が記されている。

 このセラード産コーヒー(スペシャリティコーヒー)を日本ではコーヒー愛飲家の約4人に1人が知っている。昨年のブラジル全体における生産量は296万トン超で、うち360トンの「セラード地域産コーヒー」をセラード珈琲社が輸入している。また同社がブラジル産コーヒーを含め、コロンビア・エチオピアなどから輸入している総量は、2014年は360トン、15年は400トン、16年が450トンであり、ここ数年来、毎年2ケタ台で輸入販売量を伸ばしている。業界や業態を問わずコーヒー販売競争がますます熾烈になっている現状からすれば、同社のマーケティングの確かさと最高品質へのこだわりが市場から受け入れられた結果であろう。ブラジルのミナスジェライス州パトロシーニョ市にコーヒー専門の輸出商社を持ち、現地で買い付けの際に厳しくチェックを行い、万全の態勢で日本へ出荷作業を行っている。ブラジル以外の国からはコロンビアとエチオピアから輸入。相互信頼を第1に生産者とはパートナー関係で技術提携を行い、安定的なスペシャリティコーヒー取引を確立し業務を推進している。

 この山口がコーヒーと本格的に係わったのは31年前の86年からだった。当時、大学を卒業してIT関係の会社を立ち上げたが2年後に閉鎖して、農園主の父とともにコーヒー現場で生産者として働くことを決心した。人生最大の転機になった瞬間だった。実直で積極的な性格と旺盛な研究心が実を結びこの結晶が05年の政府公認のコーヒー誕生に繋がった。この間に、栽培管理から収穫までの全工程を習得し、コーヒー鑑定士の資格も取った。さらに指導力を発揮して、セラードコーヒー生産者の多くの仲間とともに協業の精神で業界の利益団体を次々と誕生させた。それがCACCER(セラード生産者協議会)、FUNDACCER(セラードコーヒー研究所)、EXPO CACCER(セラードコーヒー輸出会社)、SCAJ(日本スペシャルティーコーヒー協会)、SCAA(アメリカ・スペシャルティーコーヒー協会)などだ。このような目を見張る実績を挙げている山口は父親譲りの作物を育てる職人芸と指導力をもっている。14歳から8年間、アルモニア学生寮(ブラジル力行会が設立した地方出身学生がサンパウロで学ぶための学生寮)に入寮した、その学生寮仕込みの精神で、気骨があり、時代感覚に優れ、コーヒー商売を通して日伯間を繋いでいる注目の日系人社長の1人でもある。

 同時に社長として山口が持っている強さの1つは、販売対象を大手コーヒー業者(例えばドトールコーヒー、UCC、キーコーヒーなど)や卸問屋などに頼らず、独自で市場開拓を行い47都道府県に及ぶ900を超える自家製焙煎業者と直接取引をしていることだろう。生産者の立場から厳選した世界各地のスペシャリティコーヒーを絶対的な自信を持って販売している。同時に多くの生産者仲間との絆は同社ホームページを見てもわかるが、生産者の役割が如何に重要か身を持って知る山口の人柄が滲み出ているようだ。さらにこうして築いた体験と経験のエキスをもとに、日伯間を中心にした国際的なコーヒーコンサルタントとしても活躍する数少ない経営者である。会社規模は小さいが輝きのあるオンリーワン商売に徹して、日本のコーヒー愛飲家に本当に美味しい最高のコーヒーを提供している数少ない1社になっている。

 そして経営的には輸出入会社にありがちな景気変動や為替動向に左右されない、いわば経営力の強さについてこう語る。「為替変動に対してはニューヨークでドルヘッジ対応をしているので商売には全く影響が出ていない」、「当社社員の1人1人が事業主というオーナー感覚で毎日仕事に励んでいる」、「学生時代に『計数管理に基づく経営』をテーマとした卒業論文を出したが、いまもこの計数管理(数理統計の手法で日常の経営活動をとらえ合理的な経営管理を行うこと)をベースにした経営を行っている、それ故にいままで経営的な失敗をした経験がない」と言い切れる独自に築き上げた経営手法がある。(つづく、筆者 カンノエージェンシー代表 菅野英明)

2017年6月6日付

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