ブラジルの未来を切り開く日系人経営者(68) 岡島 博

ブラジルの未来を切り開く日系人経営者

国際的市況商品で農業行うアマゾンのサムライ
ブラジルで岡島家再興を図る親父型経営で成功

岡島農商事 岡島 博 社長

ブラジルの未来を切り開く日系人経営者(68)
岡島 博

 ブラジル北伯群馬県人会が所有するアマゾンの「群馬の森(日伯友好の森)」(面積・540ha)の造成で知られる岡島は、胡椒の岡島と呼ばれた時代を築いた。その旺盛な事業家精神はいまも健在だ。カカオ、胡椒という国際的な相場商品を飯の種にして、大規模栽培で生産&販売を行っている。先見性・胆力・市場調査・世界の気象情報、世界の為替動向と経済の流れ、国際情勢の分析・経営者としての読みと勘、などが問われるがその能力を駆使して赤字を出さない経営結果を出し続けている。また「岡島家が社会に貢献でき人々に役立つ事業を行うこと」を目的に、長男・博之が2001年に創業した、日用品雑貨卸売業の「オカジマ雑貨卸配送センター社」を軌道に乗せた。現在500人の従業員とトラック40台を所有する2代目創業型経営者に育て上げた。今回はその農場主であり経営者である岡島博を取材した。

 僅か数世紀前、アマゾンのゴム栽培はマナウスのアマゾナス劇場にみられるように、世界の需要を一手に担う大繁栄期を築いた歴史がある。その後、栽培は東南アジア諸国に取って代わられ衰退した。その後、黄麻(ジュート)、胡椒といった国際的な市況商品がアマゾン経済を支えていくことになる。いわば国際相場商品の生産と販売がアマゾン経済の顔でもあった。いまでもブラジルは、胡椒生産が世界第4位、カカオ生産が世界第6位と上位生産国になっている。そしていま、ここアマゾンの大地で胡椒とカカオの2大生産物で農業を行っているのが岡島だ。当たれば大儲け、外れれば大損という、乱高下の激しい国際相場商品で勝負をしている農場主で、群馬県前橋市で生糸商人だった父が業界不況により、岡島が12歳の時に1家6人でここアマゾンに移住してきた。

 同時に衰退した群馬県の岡島家再興をここブラジルで果たすべく、日本の伝統的な親父文化を踏襲したファミリー文化でグループを率い、ここアマゾンで『高揚』を合言葉にブラジル岡島家繁栄の基盤構築に全力を注いでいる。事業主体である岡島農商事は1983年に設立され、本社所在地はベレンから70km離れた近郊都市・カスタニアール。経営理念と運営方針にサムライ精神である「仁・義・禮・智・信」を掲げる。事業はこの理念に沿って進められ、農場は岡島と兄の息子である明によって運営されている。耕作している農場総面積は1070ha。胡椒生産は240haで栽培し年生産量は70トン、カカオ生産は200haで4万本を栽培し年生産量は40トンだが近い将来は100トンを目標にしている。これも「将来必ず供給が不足する時代が来る」との岡島の経験則に基づくものだ。事業の3本柱に置き2万本植林したマホガニー(モギノ)は外来種のアフリカ・モギノ種だが法規制があり輸出できない状態だ。現在、胡椒とカカオは需要サイドから注文が多いため生育本数を増やしている。ただカカオは植えてから収穫できるまで約4年かかりかつ丁寧な手入れが求められる商品だ。

 また注目すべきは数年前から積極的に取り組んでいる営農形態として、約2万本あるマホガニー植林地にカカオを植え、経済・地域・環境というサイクルに貢献すべくアグロフォーレスト(森林農法)を導入し成功していることだ。マホガニーの森ですくすく育つ自然農法は一見の価値がある。

 収益性については胡椒自体が国際市場価格なので、「様々な要因により価格変動が激しく収益の計画性は難しい。しかし絶えざる最新の情報収集と父からのDNAによる瞬時の決断力の研鑽に努めたことが今日の当社の基礎」を築いた。主な販売先は輸出業者と仲買人ブローカーで、岡島の農場オーナーらしさはとにかく嘘はつかないことで定評がある。農場の雇用総従業員数は常時40人前後、収穫期には倍以上増える。

 ここで岡島の声がひときわ大きくなった。「事業規模がある程度大きくなったので子供たちに企業的経営を学ばせたい」。続けて「創業経営者として次世代及び後世に残しておきたいものは、日本人移住者の子弟として社会的に認められる人になれ、と子供たちに教えてきた。同時に(ブラジル)岡島家の名と家紋を高揚すること、を言い続けてきた」、と岡島家の親父には一貫した不動の信念がある。

 ここで岡島の人生を回顧してみよう。41年12月8日生まれで日米開戦の日に生まれた。

 出身地は群馬県前橋市で、最終学歴は前橋市立第3中学校を1年生で中退し、親子6人でアマゾンに移住した。得意分野は人おじしないこと、性格はまじめそうだがわりと明るい、長所は人に上下をつけない、短所は正しいと思ったことをつい言い過ぎてしまう。趣味は釣りと大型4輪駆動車などこだわりの自動車運転。

 生まれ育った群馬県の実家は周囲と比較して「生糸生産で有名な前橋で父は生糸商人をやっていたので生活はわりと豊かだった」。衰退理由は父の代に生糸に代わる人工繊維のナイロンが米国で商品開発されたことだった。これを契機に日本で生糸産業に関わっていた業者は一挙に淘汰された。もちろん岡島家も例外ではなった。そこで父はブラジル移住を決断することになる。岡島によると「父にはアマゾンという意識はなく辻小太郎(ジュート・黄麻)を商品化させた人物)の講演を聞いて移住を決断したようだ」と語っている。その入植地の第1歩がベレン郊外のサンタイザベル市でここの大橋敏男農場に耕配された。「パトロンの大橋さんは私達家族にとても良くしてくれた」と思い出を振り返るように淡々と語った。その後、メロン栽培をしてサンパウロまで自ら運転して出荷もしていたが、その距離は片道だけでざっと3000キロになる。これを月に数回運んで当時から知る人ぞ知る働き者だった。そしていまの本業となっている胡椒栽培でもブラジルで生産高トップになったこともある。

 家族構成は、夫人のノエミ(旧姓・尾山で父の良太はジュート開発の父といわれた)は49年・アマゾナス州生まれで、71年から家族同士で付き合っていたが彼女が歯科医師になるためベレンの大学に入学した。その後、男女の流れに従って結婚し子供3人と孫3人に恵まれた。長男はロジェリオ博之・パラー連邦大建築科卒、妻はパウラライア、孫がダニエル忠助。長女はレジーナ千代、夫はエドアルドロシェ、孫がラファエル博。次女はレナタ三枝、夫はフェルナンドフレッシャ、孫・ベアトリッシェ八重。岡島は結婚して46年目、いま奥さんに感謝の気持ちを込めて贈る言葉は「子供の教育、ありがとう」「賢妻、賢母、ありがとう」「またこの世で生まれたら結婚してね」だった。

 公職とボランティア活動は14年9月に脳血栓で倒れて以来すべて退任。しかし倒れる前の12年には「群馬の森(日伯友好の森)」で環境保護、農業で地域貢献が認められ外務大臣賞を受賞している。

 ここで岡島にこの地で生きてきた日系人経営者しか語れない、アマゾンで生きる気概と商売などについて聞いてみた。

 ・北伯日系人の特徴と気質「日本生まれの日本人だが外国に来ているという意識はない、全体的におおらかだ、良い意味でも悪い意味でもブラジルに同化している」

 ・南東部在住の日系人との気質の違い「北伯の日本人は肝が大きい、ケチケチせず物事を大きく考え江戸っ子的な気質も持っている」

 ・経営を通して北伯日系人経営者像の特徴「アマゾンというとジャングルとインディオというイメージが一般的に強いが、南の人達より米国やヨーロッパに近く、同時に多くの輸出産品を持っているので南の人より世界情勢や世情に通じていると思う。同時に仕事を通して家族、子供、地域社会、そして私達を受け入れてくれたアマゾン、パラー、ブラジルのためにと頑張っている」

 ・アマゾン&北伯で生涯をかけて農業人生を過ごしてきたが何が岡島を支えてきたか「天皇陛下を戴く日本人アマゾン移民として何か事を成すことで、個人的には(ブラジル)岡島家の家柄を高め高揚することだ」、「月1つ、故郷2つとなりにけりの心」、「当地の日本人は皆アマゾンが大好きだ」

 ・農場経営を成功させた自分自身を褒めるとすればどのような言葉が適切か「常に自分自身への新しい挑戦を行ってきたし、大きい目標は良いことだと信じて生きてきた」。

 ・息子も創業型経営者として立派に育っている、子供教育ではどのような点に力を注いできたか「世のため人のためになるように、アマゾン移民の子、孫として、岡島家を絶えず高揚すること、子供には小さいころから『私的外交官のつもりで生きていきなさい』と話してきた」

 座右の銘は会社理念と同じで「仁・義・禮・智・信」と語った後、幕末の幕臣同士で薩長との対応で勝海舟と争った「群馬県出身の郷里の英雄で横須賀海軍造船所を建造した小栗上野介を崇拝、本物の武士」と畏敬の念をもっている。同時に15年に東京を訪れた時には、真っ先に皇居・二重橋前で『天皇陛下、万歳』を三唱して周りの観光客の度肝を抜いたが、それは天皇崇拝の体現そのものであった。靖国神社では祖国の英霊に参拝をした後、境内にある『遊就館』に入館しその場で戦火に散った英霊に対して1曲歌った。これは岡島自身がブラジルで暮らしていても、ブラジル在住の日本人として大和心を持った愛国者そのものであることを、自ら証明してみせた出来事だった。

 最後に岡島は「東日本大震災の時にブラジルの電話会社であるTIMがいち早くブラジルと日本との電話回線の無料提供で、震災直後の不安解消に協力したことでも分かるように、ブラジル人は『仁の心の持ち主が多い』」と結んだ。(筆者 カンノエージェンシー代表 菅野英明)

2017年4月18日付

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