ブラジルの未来を切り開く日系人経営者(78) 小長野 道則 ㊦

ブラジルの未来を切り開く日系人経営者

アマゾンの社会的弱者と築いた共生文化
家族愛を原点に不撓不屈の精神と人づくり

◆小長野の人生
 ここで小長野の人生を紹介したい。自分だけのオンリーワンは「農業とアグロフォレストリーの深化を追究し、その普及拡大に積極的に取り組んでいる。そこにはみんながよくなることをしたいという強い思いがある」ことだ。生まれは1958年で出身地は鹿児島県。2歳半になった60年9月に日本からトメアスに家族で移住、最終学歴は小学5年生卒。生活信条は「生かされていることに毎日毎日感謝する」、「楽しく生活できていることに感謝する」。自分の得意分野は農業で、自分の性格は「やると決めたことは最後までやり続けること」。座右銘が「失敗は成功、苦労は買ってでもしろ、かわいい子には旅をさせろ」。趣味はアグロフォレストリー普及活動。小さい時の思い出は「学校で先生に呼ばれたフェスタジュニーナのダンス、5年生で学校を去る時には泣いた。今でも学校のあるところを通ると涙が出る。学校の行き帰りのいじめ。勉強できずに命令されて畑仕事をしなければいけなかったこと。命令されてやるのが嫌だったので自分で土地を持って独立しようと思った」など、多くの辛くて悲しい思い出がある。
 妻はアメリア・ノブミ・花輪・小長野で60年生まれ。感謝の気持ちを込めて贈る言葉は「父親を早く亡くし長男で家族を支えないといけない中で、自分の財産を持って家族にも分けられるくらいにならないと幸せにはなれないと決めていた。妻は組合に勤めていた。付き合って6カ月ほどして『自分には4人兄弟がいる、未亡人の母親もいる、農業の手伝いもしてもらわないといけないということを常々伝えて、結婚の条件として、兄弟たちも自分自身の兄弟のように扱ってもらわなければいけない、母親の面倒も見てもらわないといけない等のことを伝えた』。ケンカもするが彼女のおかげでいまがある。全て彼女が支えてくれている。農場の事務的な部分のやりとりを全てやってくれており、さらに家庭内のことも全てやってくれている」。
 子供はノエミ・ユリ・花輪・小長野とエベリン・マユミ・花輪・小長野の2人。父の名前は小長野親則(ちかのり)で37年生まれの、母は道子(みちこ)で37年生まれの同じ鹿児島県出身。5人兄弟の長男で一番上。ブラジル小長野家の家訓は「自分のことは自分でする、人のせいにはするな」。子供の頃に父から教えられたことは「勉強はどうでもよく仕事さえできればよい、辛くても我慢する、ペンではなく鍬を持たされた」。母からは「勉強していい人間になるように、大変でも真面目に勉強していい人間になるように、自分のことは自分でできる一人前の人になる、長男として親の面倒を見ること」を教えられた。

 それはいまの経営や自分の人生にとってどのような助けになっているかを聞くと、人生では「大変でも頑張れ、我慢しろという人間性と精神性を鍛えられた。日本のように災害の多いようなところでも生き抜いていけるような人になった」。農場主としては「辛い時期にも我慢すれば価格の良い時期にあたる、悪いことはいつまでも続かないから我慢して底力が試される、諦めたり潰れたりしないように試されていると思って耐える」ことが身に付いた。移民以来、小長野が農業移住者として成功した最大の理由は「気持ちのもちようだ。いつも豊かになりたいという気持ちが常にあった。希望と夢は大きく見る。80%できれば最高だと考えた。残りの20%は将来の宿題として続けていこうと。スポーツなどの余暇の時間を仕事に費やした。農業を楽しく実践していた。大変ではなく楽しく農業をやっている」、「一本筋でやろうと思ったことはやりきるという考え方。家出をしてでもやり遂げる、自分の決めたことはやりきるという考え方」で、そこには課題を克服する強靭な意志があった。
◆社会的弱者だった故にアマゾン地域の生活向上に全力注ぐ
 父親を少年時代に亡くし言語に絶する苦労をした小長野。市の農務局長時代にはブラジル人の零細農家を毎週末に訪れ栽培作物の指導や援助を行っており、いまでもこれらの人達から強く慕われている。「自分も苦労しているから相手の気持ちがよくわかる。惨めな生活をしていたからこそ、相手の気持ちがわかる。一方で、経営者として会社側の気持ちもわかる。両者の気持ちがわかるからこそ、傷つけずに話し合いで解決策を模索していく役目を買っている」。「インディオ達は部族間のコミュニケーションも密であり多方面からの情報が入り、インディオへの理解があることがわかっている相手だと知っているために、話し合いに応じてくれるという面もある。インディオの食べているもの、飲んでいるものを、食べていたからこそわかることもある。別な存在ではなく、同じ存在であるという考えのもとに、相対することで心が開ける。差別的な考えを持って接していては相手が心を開かない」。
 小長野にとってトメアス精神とトメアス魂とは、「日本に研修(1996年に2カ月間)に行く前は「日本人」と思っていたが、日本に行ったら「外国人」と言われた。アマゾンの人というイメージでインディオのような扱いをされた。風呂に入るのか、どうやって日本語を覚えたのか、などの質問をされた。どこに行ってもアマゾンの話を聞きたいと言われた。そこで自分はブラジル人だと決心してブラジルに貢献しようということを決めた。研修終了時には、研修で訪日したことを生かして、日本にもお返ししたいということを述べた。ブラジル人として、堂々として生活しブラジルに骨を埋める覚悟で地域社会の発展に尽くすこと」だ。
◆トメアスの日系人気質
 トメアスの地で暮らしてきて良かったと思うことは「日本人が団結している。日本の元々の躾が残っている。文化協会、組合、お寺、学校。言葉がわからなくても文化協会が世話をしてくれた。誰かがいつも心配して、世話をしてくれる。電化されているのは電化組合を作って、電化を進めたこと。学校もコロニアが作ってくれた。コミュニティーで協力して社会づくりをしているところ。日本人の手でコロニアができた」ことだ。
◆日伯関係を語る
 ここアマゾン・トメアスから地球環境保護と自然との共生に関するメッセージは「日本で生まれて、日本に行かしてもらって、日本の『おかげさま』の考え方で生きている。日本の税金で日本に行かしてもらって、そのお返しをしていきたいという思いから、環境づくりを実践してきているところがある。アグロフォレストリーでとれたものが日本で販売されており、それが消費されていることは喜び、誇りである。ますます森づくりに貢献していきたいと思える。日本はほとんどの食糧を輸入しているので、ブラジルからの生産物をたくさん日本に送り、日本の消費者に届けたい」。
◆日系人気質とボランティア
 トメアスの日系人気質について「トメアス入植の日系人は苦労をしている。苦労に耐える我慢強さ。それに耐えられた人がトメアスに残っている。コショウが悪くなった時に周辺に新しい耕地を求めていった人たちもいるが、トメアスの中では残った人たちが結束しているため日系人の中の団結力がある」ことだ。
 主なボランティア活動では「二十数年前から個人的に始めたことで、出稼ぎが続いた時期があり、出稼ぎから帰ってきた人が強盗にあい大変な目に合った時期があった。自分の農場にも強盗が入ったことが何度もあった。その頃から周辺の農家に支援をするようになった。土地を持っている人たちが農業をできない。キャッサバ生産位しかできない。全てモノカルチャーで生産している。バイクで回り肥料や苗をあげたりもした。土地なし農民に土地を取られたりもしたがそういった人たちにも指導した。日本人たちだけがお金を持っている、いい車に乗っていると後ろ指差されていたが、そのような人たちが日本人を庇うようになってきている。指導をすることでそれらの人たちも豊かになれるということを立証したいと思ってやってきた。それが一つのモデルになり、政治の中でもトレーニングや苗畑づくりをする政府のプログラムとして実施している。小さくても継続していれば、いつか政治的に大きく展開される日が来ると思って続けていた。アグロフォレストリーの融資クレジットラインができたのもこれらの活動の結果だと思っている。

 大切にしている日本の言葉は、「人生では『勤勉、忍耐』、日本人はまじめということに対して本気で聞ける。それは実践されているから。日本人の精神、しつけ。できるだけ真面目にやれ、辛くても頑張れというように親から教えられた。汗水流して頑張れと教えられた。農場主としては『献身、責任』、50人の農場職員を抱えてその人たちを自分の家族のように大切にしている。彼らも安心して生活できるように、子供たちに教育を与えられるように、これは(自分の)経営者としての責任と思っている」。
 最後に小長野の農場オーナーらしさはどこで分かるかを聞いた。「これまでの仕事と人生の経緯を聞きにくる人たちが多い。苦労話はあまりしない人が多いと思うが、大変な思い、惨めな思いをしたことも話す。当農場の職員には資金を前貸しし農場のパートナーとして扱っている。30年以上勤めている職員もいる。孫が働いている人もいる。ひ孫も勤めてくれると思う。農場の中で育った人たちが沢山おり、その人たちに切り盛りしてもらって従業員達のために農場を運営していると思っている」と取材を結んだ。

 小長野の取材で分かったことは、森林農法の体験と経験に基づく論理性に裏付けられた話術力だ。例えば大学の教授クラスの高尚な話し方に比べ、小長野は、子供でも理解できるような言葉と話し方で、分かり易く親しみ易い平易な言葉で、森林農法の普及拡大に努めているこの分野を代表する人物と言ってよいだろう。(敬称略 文責 カンノエージェンシー代表 菅野英明)

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