ブラジルの未来を切り開く日系人経営者(78) 小長野 道則 ㊤

ブラジルの未来を切り開く日系人経営者

アマゾンを代表する森林農法の世界的権威者
本業でも毎月収入得られるシステムを構築

トメアス総合農業協同組合 理事長
兼コナガノ農場 農場主

世界の酸素供給量の5分の1を排出する自然の宝庫・アマゾン。ここアマゾン河口の貿易港であるベレン市(人口140万人)から南に250キロ離れた地点に日本人移住者が築いたトメアス移住地がある。ここに世界的なアグロフォレストリー(森林農法)の最高権威者である小長野の農場がある。230ヘクタールの全てが森林農場になっている。「自然との共生」「地球環境を守る」森林農法の営農で成功しているその第1人者である小長野を取材した。

◆小長野農場と森林農法(アグロフォレストリー)
 小長野が農場主で1980年1月に開場したFazenda Konagano・小長野農場はトメアス市内にあり、農場総面積は850ha(所有面積)、うち230ha(植栽面積)がアグロフォレストリーの農場面積だ。主な栽培品種と品種毎の栽培本数は、カカオ・160haに約13万本、アサイ・210ha(カカオとクプアスの中に)約8万本、クプアス・50haに約2万本、コショウ・20haに約3・2万本。農場従業員の常勤は50人で収穫時期には25~30人前後増える。営農形態における農場の特徴は「自分は大規模に実施している。収入を第一に考えて経済性を重視して実践している。そのため栽培種数は少ない。経済的に成り立ってこそ、そこに環境・社会的な部分がついてくる」と考えている。市況に左右されず市場で売れる生産物を作るための努力と創意工夫は、「市場調査をし、消費者が好んでいるものを植えていくようにしていた。昔はカボチャ、メロン、パパイヤ、その後にマラクジャ、クプアス、アサイ、カカオがある」、「市況が悪くなってもいつかはよくなるという信念であきらめずに継続すること」、「この結果として市場で売れる現在の主要生産物の3作物はカカオ、コショウ、クプアス」という。森林農法の好例は「カカオの中にアサイヤシを植えている。自然にはカカオとアサイが混ざっている、自然の組み合わせに倣って植栽を行っている」。

 アマゾンの大地で失敗しない農場経営をやっている理由について聞くと「永年作物で安定して農場経営をできるようになるために、初期投資の時期には面積を最大限活用して短期作物を栽培し、その収益で運転資金、及び、永年作物の投資資金も賄い、永年作物が安定してくるころには、安定した収益があげられるようになる」、「12カ月、毎月収穫(収入)が得られるように作物を組み合わせる」、「一つの作物に偏らず、最低3種(三脚(三本の矢))の作物を栽培する」、「これにより、経済、社会、環境に良い農場経営が可能となる」。

 こう語る森林農法の世界的な権威者である小長野が唱える森林農法とは何なのか、分かりやすく説明してくれた。「人間・動物がそれで生活が豊かになる。家族の生活が豊かになり、次の世代が育っていくための環境。良い地球環境にしていこうという意識づくりの場でもある」。続けて「水資源の保全。アグロフォレストリーはモノカルチャーに比べて、農場内の水分が多い。融資制度もアグロフォレストリー向けの制度ができ普及してきており、環境保全面で少ない水資源を有効利用できる手法として普及していきたい」という。
◆小長野道則とはどのような人物か
 アマゾン移民の日本人の故郷といわれるトメアスで幼少期から育ち日系コロニアのシンボル的な農村から誕生したアグロフォーレストの第一人者は自分をこう語る。「小さいころから貧乏をして苦労した経験から、いじめまがいのこともあり、いつまでも惨めな生活はしたくないという思いと、親に迷惑をかけたくないという思いから、いつか成功してやろうという考えが常にあった」。さらに「母親が常に一生懸命勉強して、先生の言うことを聞く、挨拶を大切にする、などの教えを得た。長男だから必ず親の面倒を見ることと教えられていたことから、いまでもその教えを守っている」、「子供時代の経験がいまの自分を作っている。行きたい学校に行けなかった悔しい思いがあったが、恵まれない人たちに教育をして、恵まれない境遇から脱出できる手伝いをしたいという思いがあり、人に教えることが好きである」、「農業指導を通して人づくりをしている」、「日本人移民を受け入れてくれたブラジル社会への貢献の気持ち、ブラジルを良い国にしたいという思いでやっている面もある」と、アマゾンに住む社会的弱者の痛みや苦しみを共有した体験をしている。
◆坂口陞(のぼる)との出会い
 アマゾンで森林農法のパイオニアと言われる坂口陞(東京農大林学科を卒業後にアマゾンのトメアスに移住、比伯農大会初代会長)といまシンボル的な存在になっている小長野道則にとって坂口陞とはどのような存在か。「坂口さんにはパイオニアとしての見方があった。組合の理事として、代替作物を選定する責任から現地の人たちの生活からヒントを得て実行に移していったと思う。自分が20歳代の時、坂口さんから『自然を見なさい、自然から学びなさい』と教えられた言葉が強く印象に残っている。その自然との共生を実践すべき」ことを学んだ。そして「いい仕事をしている」、「ブラジル人への普及をしていることはえらい」ということを言ってくれた。教えるときも、考えるきっかけになる入り口だけを示唆して、それ以降は自分で考えさせるスタイル。いま、自分もそれと同じことを周りの人たちにしている。その際には必ず将来の話をする」。

 いまトメアス農協理事長の立場から「トメアスのような規模で森林農法を実践しているところは現状ではない。生産性の低い形でのアグロフォレストリーではあるが、広く実践されている地域としてバイア州があり、トメアスで学んだ内容を普及してきている地域として、マラニョン州、サンパウロ州レジストロ市、アマゾナス州マニコレ市、アマパ州などがある。また、トメアスの周辺地域でもアグロフォレストリーが拡大しつつある」という。
◆今後の森林農法
 地球に住む人類にとっていまなぜ森林農法が必要なのか、その持論は「アグロフォレストリーが普及することで地球環境がよくなる。アマゾンファンド等の資金が来ているのも環境保全のためだ。持続可能性の観点からアグロフォレストリーが必要」ということだ。
 この農法を地球規模で普及拡大するにはいま何が必要かを聞くと「人づくりが最も重要だ。JICAで実施いていたアグロフォレストリー技術普及の人材育成プログラム(18日間)が10年間実施されていたが、これは非常に良かった。ブラジルアグロフォレストリー学会の中でも人材育成が課題と認識されている。地域の状況(市場性のある作物など)に適したアジャストは必要」という。
◆第6次産業を支えるトメアス農協
 第6次産業の果樹加工工場は87年にJICAの協力を得て竣工した。その設立目的は「コショウの代替作物としてパッションフルーツの生産と、サンパウロ、バイアへのフルーツ出荷は運送代が高くつくために、加工して販売できるようにすること」であり、「日本人移民が設立し、いまなお日系人農家を中心とする農業協同組合であり、農産物の生産から加工までを行っており、品質へのこだわり等の日本人気質を大切にしている。生産者(組合員)の利益を最大化すること」を目的としているが地域経済への貢献も大きい。設立年月はアカラ野菜組合として31年設立、49年にトメアス総合農業協同組合が設立された。
 現在の会員数は176名の組合員(ピーク時は500名)。トメアス農協の持つ主な施設は・本部建物・コショウ倉庫・カカオ倉庫・乾燥設備・搾油設備・組合員直売所(Casa do cooperado)・ジュース工場・フルーツ搾汁ライン(100g、1kg、20L、180L)・アイス製造ライン・冷凍倉庫(3000トン)・ラボラトリー(理化学分析、微生物分析機材)・苗畑及び試験圃場。

 87年に竣工したアマゾン地域では第1級の第6次産業の果樹加工工場がある。ここでの主な事業内容は、・ドライ商品製造販売(コショウ、カカオ、植物油)・フルーツ加工品製造販売(ジュース(フルーツピューレ)、アイス、ジャム・農業技術研究・普及事業・農村電話・電化事業。マラクジャ加工ラインは年5000トン(フルーツ)、16種類のフルーツピューレ(100g、1kg、20L、180L)、などを生産している。主な生産設備と年間生産能力は、【加工ライン】フルーツ別に4加工ライン、アイス製造ライン、【殺菌器】急速冷蔵チューブ殺菌器(2器)、【充填機】100g製品充填機、1kg製品充填機、ペール・ドラム充填機、【冷凍設備】急速冷凍庫・2庫(各20t)。冷凍倉庫・3棟(各1000t。うち、1棟は急速冷凍機能)、【年間生産能力】約6000tと、この工場は87年に竣工した。

 主な生産品目は、アサイ、クプアス、マラクジャ、アセロラ、パイナップルなどだ。この工場のトメアスの産業振興に果たしている役割について小長野はこう語る。「直接的には、ジュース工場で100―120名の従業員がおり(季節で若干変動)、また、原料農産物は組合員以外にも登録した生産者から購入している。コショウを栽培する際、または後作として、様々な果樹を栽培するがその生産物を買い取っており、トメアスの経済を実質的に支えている。仲介業者が来て生産物の買付にやってくるが、CAMTAが実質的な最低価格を作って買い支えていることから、生産者にとっては良い条件が作られている。間接的な役割としては、これらの原料生産物を生産するための農業全体に影響しており、農業資材の流通や農場で働いている従業員の雇用など影響は大きい」と地域と一体化した工場だ。
※明日は後編を掲載(敬称略 文責 カンノエージェンシー代表 菅野英明)

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