【移民104周年】ミカド運動倶楽部①

「ミカド運動倶楽部」発足式の様子(ブラジル野球史上巻より)

日本移民初のスポーツクラブ

 イタリア移民が作った「パルメイラス」や、ポルトガル移民が作った「ポルトゲーザ」といえば、伯国の中で知らぬ者はいない巨大な総合スポーツクラブだ。その影響力は民族の枠を超え、広くブラジル社会に根をおろした。しかし「3人寄れば会を作る」といわれた日本移民は伯国に渡った当初、あまりスポーツを中心に据えたクラブを設立しようとは考えなかったようだ。現在ではニッポン・カントリークラブなどの総合型地域スポーツクラブが伯国各地に存在するが、その先駆けになったのは1916年に誕生した「ミカド運動倶楽部」だった。ミカドは日本の国技といえる野球を中心に陸上や水泳など、その他のスポーツも行っており、その後の日系スポーツクラブや野球チームの設立に少なからず影響を与えた。ブラジルの日系スポーツクラブの歴史はミカドから始まったといえる。(敬称略)

ミカドの誕生

日本の国技である相撲は、特別な道具を必要としなかったため、1908年の第1回笠戸丸移民のサントス港入港以降、ほとんどの植民地で数少ない娯楽の一つとして多くの青年によって行われてきた。ブラジルで最初の正式な相撲大会は、14年8月31日に天長節を祝して聖州グァタパラで開催されたようだ。

一方、野球がブラジルの地で芽を出すのは、道具や広大な土地が必要なため、第1回移民から8年後の16年9月28日の「伯国日本人青年會野球部」の発足まで待たなくてはならない。

本紙の2012年新年特集号では、日本移民初の野球チームは聖市で発足した同野球部であると報じたが、同野球部は日本人の社交、連絡機関である組織の青年会が設けた野球部であり、純然たるスポーツクラブとは言えなかった。事実、野球の試合もさほど行われておらず、おそらく日本移民初のスポーツクラブの原型となると、20年5月13日に聖市で誕生した「ミカド運動倶楽部」になる。同クラブは野球だけにとどまらず、陸上や水泳なども行う、現在でいうところの総合型スポーツクラブだった。

笹原憲次の登場

ミカドの創設者の一人、笹原憲次は謎に包まれた人物だ。1889年に静岡に生まれ、慶応大学予科に入学するも家業の都合で退学。1915年に欧州経由で着伯している。移民でも呼び寄せでもなく、冒険心のためにブラジルに渡ったと思われる。

ブラジル野球史編集委員〔編〕『ブラジル野球史 上巻』によると笹原は渡伯後、ドウラデンセ線でたばこ作りなどをしていたが17年に出聖、アメリカ人と交流を持ち、彼らの野球チームの一員として活躍。ポジションは投手だったという。

20年5月6日、笹原は日本人だけのチームを作ろうと、聖市コンデ・デ・サルゼーダス街の大正小学校で相談会を開き、13日には同校で発会した。それま での青年会の野球部ではなかなか試合に必要な人数がそろわず、定期戦を行えるような状態ではなかったため、日本人の野球チーム結成を急いだのだ。

伯剌西爾時報によると、同年6月26日に聖市モッカのアンタルチカ運動場で行われた記念すべき第1戦は笹原もピッチャーとして出場したが、米国人チームに13―4で敗れている。

ミカドは、サンパウロの米国人チーム、サントスに入港した船員チームや米国人チームとも対戦しており、翌年11月にはライバルの日本人チーム「ラッパ野 球団」が誕生し、グランド開きにミカドを招き試合を行っている。その後、ミカドとラッパの定期戦が行われるようになったほか、両クラブではテニスの交流試 合も行っている。

日系クラブの興隆

23年に海外興業株式会社の職員となった笹原は、聖市からレジストロ市へと転勤になり、同地でも野球振興に励んだ。実業家の鮫島直哉の寄贈旗を巡って 24年に聖市のアクリマソン公園で開催された第1回鮫島旗争奪戦では、レジストロチームを率いて出場。見事、優勝している。その結果、レジストロだけでも 7~8チームできるほど野球が盛んになった。しかし、風のように現れた野球のカリスマ、笹原は26年6月、突然の脳出血で早世してしまう。笹原の死後、聖 市にはアサヒ、エメボーイ、聖州義塾、パレストラ・イタリア、ゼネラル・モータースなどのチームができ、ノロエステ、ソロカバナ、北パラナでも野球が活性 化した。

36年にはサンパウロ野球倶楽部が結成され、聖市内十数チームによりリーグ戦が行われるようになり、同年、全伯大会も初開催されるなど野球熱はピークを 迎えた。各地で新クラブが産声をあげる中、ミカドの存在感は急激に薄くなり、その名前は30年以降は新聞紙上から消え、ひっそりと幕を閉じたとみられる。

この後、伯国球史には弓場農場の創設者で伯国野球のヒーロー、弓場勇がアリアンサを率いて、伯国野球を盛り上げていくこととなる。

2012年6月23日付

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