中南米の日本語 ~歴史的背景~①

元外務省員  石井 清史

 日本外務省の外交官としてブラジルに  年在勤したことのある石井清史氏が、日本の国立大学図書館関係者が発刊している季刊誌「むすびめ2000」に「中南米の日本語」と題して、3回の連載を続けている。本紙は石井氏及び「むすびめ2000」編集部の了解を得て、石井氏の記事を転載する。「むすびめ」誌は「図書館と日本在住外国人むすぶ人・ことば・生活・本・情報の通信」が編集趣旨で、石井氏の記事は示唆に富んだ内容となっている。(編集部)

同郷かつ大学時代からの旧友である瀧澤編集長の招待により、「中南米と日本語」を執筆させていただきます石井清史です。執筆に当たり、多文化理解及び日本在住外国人理解を主眼とする「むすびめ」の趣旨に添うべく、このタイトルを選んだ理由及びタイトルが含蓄する意味を私の経験と具体例を基に説明したいと思います。

「むすびめ」の問題意識は、既に半世紀を経た我が国の国際化が抱える問題と、一般に単一民族であると考えられている我が国の減速とダイナミズム復興の課題を示唆していると思えます。執筆タイトルは、諸々の観点があり多様な説明を要します。全体として、歴史的背景、日本人移住と日系人社会、日本語を取り巻く現在の環境について述べたいと思います。

今回はタイトル選定の趣旨と日本人移住の歴史的背景について述べます。この寄稿が、かつて日本人移住を受け入れた中南米諸国からの出稼ぎ日系人とその家族の理解に少しでも役立ち、中南米における我が国の資産であり、文字通り「交流の懸け橋」である移住者・日系人を認識する一助となれば幸甚です。なお、本稿については多くの御意見(御異見)があると思います、私のe-mail は次の通りです。読者の御見解をお聞かせいただけば幸甚です。 kys_ishii@yahoo.co.jp

(1)自己紹介
先ず自己紹介します。日本では大学でスペイン語を専攻し、その後、中米グアテマラのカトリック大学で哲学・文学を専攻しました。右卒業後、外務省に入省し、中南米各国に約25年在勤し昨年退職、現在は、中米のエルサルバドルに在住しています。1974年以来現在まで、約37年余中南米各国に居住しました。

私の外務省勤務は、東京では(旧)領事移住部移住課及び(旧)領事移住政策課移住班(いずれも現在は領事局)に勤務し、特にJICA(国際協力機構)が実施する日系人子弟の研修・日本語教育を担当しました。在外ではグアテマラ(2回)、ボリビア(首都ラパス)、ブラジル(サンパウロ)、エルサルバドル、コスタリカ、ブラジル(リオデジャネイロ)、ボリビア(サンタクルス)に勤務し、総括・政務・経済協力・広報文化・領事等を幅広く担当しました。

日本語との関係では、外務省文化交流部所管事業(文部科学省国費留学生の選考が含まれます)、国際交流基金事業及びJICA事業を担当し、PTA会長としてグアテマラ日本人学校運営にも関与しました。特に、中南米における移住者子弟対象の日本語教育、日系人・非日系人対象の日本語普及、文部科学省国費留学事業を担当し、中南米における日本語普及と学習者の育成に従事しました。

これらの経験から、多言語・多文化・多民族の問題、言語と人間形成について思考する状況に置かれ、「言語は歴史的に発展する文化的背景と切り離せない生き物であり、人格の基本である。言語習得は学習者自身の主体的な生き方に拠るべきである」という認識を深くしています。そして、益々多様化する日本語学習者の状況に対応するため、現実に即した政策立案と施策により、縦割り行政ではない省庁・政府関係機関の連携が必要であると確信します。何よりも、政策・施策及び規則・規定は日々変化する現実に合致させるべきであると考えます。

(2)「中南米の日本語」というタイトルについて
こうした状況から本稿を「中南米の日本語」としました。何故「日本語教育」や「日本語普及」でないのか、また日本語学習でもないのか? 一般的に「教育」や「普及」は与える側からの発想であり、また、「学習」は受ける側からの発想で、いずれの場合も学習主体者の意識と日本語をとりまく多様な環境が見えません。

日々変化する社会環境の下で、現実は「誰」が「何」を「誰」に「如何に」して与え、主体的学習に導くのか、錯綜しています。移住者1世・2世・3世・4世のいずれの立場に立つのか、日系人を日本語継承者とみるのか、あるいは、例えば外国人である日系ブラジル人への日本語普及とみるのか、更には、日本語学習を、非日系人を含めた広範な社会現象と見るのか、どの観点に立脚して現状認識するかにより多様な対応策が考えられます。

日本への出稼ぎ者の多い日系人社会を有するブラジル、ペルー、ボリビア等では、既に5世が育っています。「日系人」という国籍は無く、存在するのは「日系ブラジル人」あるいは「日系ペルー人」です。混血化の進む日系人社会及び拡大しつつある親日外国人の日本語学習熱を正常に判断すれば、日系人に対する継承的な日本語教育ではなく、日本語普及・学習と判断するのが妥当であると考えられます。(つづく)

【略歴】石井清史(いしい・きよし)
グアテマラで4年間カトリック大学で勉学した後に同国に2回勤務(計11年)、エルサルバドルに3年勤務、コスタリカには2年勤務。ブラジルでは、1995年の日伯修好100周年当時にサンパウロ総領事館領事として同事業にかかわり、ブラジル日本移民100周年当時にはリオ総領事館の文化担当領事として日系団体・日系人と協力して多種多様な文化事業・イベントを実施した。ボリビア・サンタクルス出張駐在所所長を最後に外務省を退官し、現在は中米エルサルバドル共和国の首都・サンサルバドルに在住。

2012年12月11日付

 

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