文協 図書・映画だより『千羽鶴』

 作者は有名な川端康成である。私がこの小説を初めて読んだのは、高校生の時だった。美しい茶室や志野茶碗の描写に憧れたが、茶の師匠の俗悪さには嫌悪感をおぼえた。けして名作とは思えず、清純な気持ちを裏切られた感じがした。しかし、こうして数十年経って読み返すと、女人の大人の甘美に頷けるところもある。主人公の菊治と太田夫人の愛は、光源氏と藤壺の宮との光景をも思い起こさせる。又太田夫人の描写の中に、「あの人には用心しなさいよ。しおらしそうに見せて、いつも自分には罪がないという顔をして、何を考えているかわからないところがあるから」というちか子の毒舌に、世の中にこのような女性はいるものだと嗤ってしまう。

 この『千羽鶴』の続編に『波千鳥』があるが、これは未完に終わっている。川端の制作の中では後半に、菊治は太田夫人の娘文子と再会し、そこで心中という筋書きもあったようだ。

 私個人としては「桃色のちりめんに白の千羽鶴の風呂敷を持った美しい令嬢ゆき子」との新婚生活に紆余曲折はあっても、時が解決して菊治に幸せな家庭を作ってほしいと思う。あまりにも『滅びの美』、『末期の眼』は哀しすぎる。

 昔、京都で川端康成氏に会ったことがある。「涼しい目と、その声」は高校生の私にひどく清浄な印象を受けた。が、美を追求する人は川端康成をはじめ、三島由紀夫、千利休と自死する人が多い。なぜだろう。

 来年ブラジル日系コロニアは110周年を迎える。そのロゴにも、赤と黄色の千羽鶴が使われた。日本人の美意識に、この長寿のシンボルである千羽鶴は深くかかわっている。日系コロニアも益々の長寿社会であってほしいと願う。(ま)

 文協図書委員会の『フリマ』は毎月1回、開催されております。日付けが不特定で、皆様にご迷惑をおかけしておりますが、月一の水曜日です。アチバイアからの「焼き栗」等も参加しておられます。どうぞよろしくお願い致します。ご帰国の皆様等、参加されませんか?

 詳細は文協図書館(電話11・3208・1755、及川かアケミ)まで。

2017年6月16日付

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