松本浩治『移民Ⅱ』のどこが凄いか㊦ 特別寄稿 記録映像作家・岡村淳

「すべての写真は心霊写真である」。

 35年にわたって映像稼業に関わってきた私の持論である。レンズと機械を用いる映像表現では、絵画とは異なって、撮り手の制御しえない、予期しえない何かが写り込んでしまうことが、しばしばだ。

 この8月に刊行された松本浩治さんの写真集『移民Ⅱ』を例にとってみよう。松本さんが選んだ約100人の日本人移民1世がキャプションに書かれた名前と年齢、出身地とともに紹介されているが、写真によっては紹介されている主人公以外の人も写り込んでいる。

 例えばパラナ州の佐々木治夫神父の写真だ。佐々木神父の右に、石川裕之神父が写っている。石川神父は東京農大を出てからカトリックの司祭になった変わり種だ。アマゾン地域のカスタニャールに赴任していたが、西暦2007年に日本への一時帰国の途中、ニューヨークで客死された。享年48。

 私は9月に訪日する際、松本さんから、石川神父の日本の遺族にこの写真集を届けてほしいと頼まれた。私は日本で伝手をたどって石川神父の実家の住所を調べてお送りして、ご母堂から御礼の電話をいただいた。松本さんは、主人公以外に自分の写真に写り込んだ故人に対しても、岡村に頭を下げてでもこれだけの誠意を尽くしているのだ。

 姿勢を正して『移民Ⅱ』のページをめくりながら、10年前に出された『移民Ⅰ』と比べてみたくなった。これが、実にいいのだ。『移民Ⅰ』は邦字新聞社の先輩など松本さんの身近な人も取り上げられていて、その親近感がこちらにも伝わってくる。

 この10年間の松本さんの変化、あるいは進歩をうかがおうとした自分がヤボであることを思い知らされた。松本さんが10年を経ても、同じ品位と質を維持し続けていることが凄いのだ。私たちは「お袋の味」を求める時、新奇な素材や味付けを期待するのではなく、お馴染みの安心できる食を望んでいる。日本で映画『男はつらいよ』シリーズが主演の渥美清さんの逝去まで48作も続いたのは、大衆が山田洋次監督らによる質の高いマンネリを期待し続けたからだ。

 惜しいことに『移民Ⅰ』は松本さんの手元にも在庫がほとんどないという。『移民Ⅱ』出版の残務も片付いていないだろう松本さんに10年後の『移民Ⅲ』の刊行をお気軽に期待する前に、ぜひ『移民Ⅰ』の増刷をお願いしたいものだ。(おわり)

2016年11月2日付け

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