特別寄稿 本能的 遠距離介護㉙

本能的 遠距離介護㉙

介護費用は原則、親の負担で 本能寺 逢休

2015年の夏、タブレット端末で家計簿アプリを何気なくチェックしていると、顔が青ざめました。
 収支がマイナスになっている月がいくつもあり、月の赤字額は多いときには、10万円を超えています。
 年間収支に切り替えると、黒字が土俵の俵に足をかけて、ぎりぎりで踏ん張っているところでした。
 これまで夫婦二人の生活で、収支がここまでカツカツになることはありませんでした。
 そういえば、最近、妻はネット通販の画面を頻繁にのぞいていました。ひょっとして、通販中毒になってしまったのではないか。そんな疑念がむくむくと頭をもたげてきました。
 メッセージアプリ「LINE」で確認を求めたところ、間髪入れずに怒りに満ちたメッセージが送られてきました。
 そこには、ネット通販の支払いの内訳が添えられていました。経口補水液、液体洗剤、米……。大半は、母が重くて買い物に困る生活物資でした。妻が、代わりにネットで購入して、直接、母のマンションに送っていたのです。浪費ではなかったのです。
 前年や前々年の収支と比較してみると、赤字分はいずれも、母の介護がらみのものばかりでした。
 見守りカメラやIHクッキングヒーターといった機器の購入費が計約 万円。夫婦二人で月に1回、東京から神戸まで往復する交通費。母が引き落とし先の口座を持っていなかったため、私が負担していたデイサービスと、ホームヘルパーの費用。確認できただけでも、年間120~130万円に上っていました。ここにネットで購入した生活物資の費用も加わるのです。
 介護費用はすべてこちらで負担する――。2009年に介護を始めた当初、私はそう宣言しました。それが育ててもらった恩返しだと考えていたのです。
 妻は「あんたが、それでいいんやったらいいけど」と了承してくれたものの、明らかに不安そうな表情を浮かべていました。まさに妻の不安が的中したのです。
 介護はこの先、何年続くかわかりません。このペースでは、家計が心配です。妻に濡れ衣を着せたことと見通しが甘かったことを深く詫び、立て直しを図りました。
 最大の支出は、月に1回、夫婦二人で東京―神戸間を往復していた新幹線代です。そんなに頻繁に、しかも、二人で行く必要はないのではないか。そう思われるかもしれませんが、回数や人数を減らすという選択肢はありませんでした。
帰省時には、母の月1回の通院に付き添っていました。付き添えるのは、母と仲のいい妻しかいません。私が申し出ると、強がって見せたいのか、一人で行くと強硬に言い張るからです。
とはいえ、妻だけが帰省すると、負担が大きくなります。私たちは介護を役割で分担しており、私が担っている金銭管理と、役所や介護関係者との交渉までお願いすることになるからです。妻は介護を始めてから、母のことを心配するあまり、びらん性胃炎を患っていました。費用を切り詰めて、さらに健康を害することになっては本末転倒です。
回数と人数を維持しながら、経費の切り詰めを目指しました。新幹線代はすでに、1割引きの予約サービスを利用していました。
 調べてみると、親の介護に関わる交通費は、税金の控除が受けられると知り、医療費控除を申請。デイサービスの費用も、一部は、医療費控除の対象となるので、遠慮なく申請しました。申請総額の2割弱が還付金として戻ってきました。額にすると、年間 万円にも上り、医療費控除は、遠距離介護の力強い援軍となりました。
見守りカメラ、高温防止機能付きエアコンやIHヒーターなどの機器、生活物資については、母に支払いをお願いすることにしました。
 母は、人の世話になったり、借りを作ったりすることが嫌いな性格だったので、「それは申し訳なかったわねえ」と言いながら、快く支払いに応じてくれました。
これで一息つき、無理のない範囲で、余裕を持って遠距離介護を継続することができました。
 「介護の費用は親自身が払う」。そんな介護の原則を知ったのは、それからしばらくたち、介護の専門家のセミナーを受講したときのことでした。(つづく)

次=12月28日更新予定
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