特別寄稿 本能的 遠距離介護(終)

大竹富江さんに学ぶ 未来を語る 90代 本能寺 逢休

特別寄稿 本能的 遠距離介護(終)
94歳にして「未来の話をしたい」と語っていた大竹富江さん(2008年6月17日、筆者撮影)

 ブラジル赴任中に日本人移民100周年を迎え、多くの日系移民を取材させていただく幸運に恵まれました。その中の1人が、芸術家の故・大竹富江さん(2015年、101歳で死去)でした。
 移住当時の思い出から始まり、芸術家としての歩みをたっぷりとうかがい、取材協力のお礼を述べたところ、物足りなそうな表情でこうおっしゃいました。
 「あら、もう終わりなの? 何だか過去の話を聞かれてばかりで、私はもっと未来の話をしたかったのに……」
 当時、大竹さんは 歳。これまで築き上げた実績と名声に満足されることなく、まだまだ面白い作品を作り続けたいと意欲を燃やされ、自分の夢を語りたかったとおっしゃるのです。
 「私はもっと未来の話をしたかったのに……」
 この言葉は強く心に残りました。取材した日系人の中には、 代で独り暮らしとなり、手足の神経痛に苦しみ、「早くあの世に行きたいのに、お迎えが来ない」と嘆いている方もおられたので、生への意欲がより際立って見えたのです。
 ブラジルから帰国後、親の死と介護を経験してからは日々、大竹さんの言葉の重みをかみしめるようになりました。
 父は 歳で退職後、高野山大学の通信制で死生観の勉強をしたいと張り切っていましたが、年に数回、通学するのが体力的にきついと断念。ほぼ家にこもりっきりになり、 歳のとき、同窓会の帰りに転倒して、亡くなりました。
 母は 歳で定年後、海外に語学留学したい、ボランティアをしたいと夢を語っていましたが、父の死をきっかけに 歳で認知症を発症。やはり自宅にこもりがちになりました。
 結局、両親とも定年後の時間をどう使っていいかわからないまま、体力も脳も衰えていった。そういう印象です。
 親の介護をしていると、自分の未来図を見ているような感覚に陥ります。
 「 歳を過ぎたら、親の介護をしながら、同時に自分の介護に備え、認知症対策を始めた方がいい」
 新聞社勤務時代に受講した社内の介護セミナーでも、こう助言されました。
 言葉の意味はよく理解できました。社内には、 歳代の記者もいますが、座ったままの長時間労働で足腰を悪くしたり、気力を失ったりする人もいました。 代の自分と、 代の社員、そして、 代の母の姿が、一直線上に並んで見えました。自分もすぐに 代になり、あっという間に母の年齢に達すると悟ったのです。
  になっても、 になっても、人生を楽しみながら、未来に希望を持ち続けるには、どうしたらいいのだろうか。認知症が進み、どんどん意欲や気力を失っていく母を見ていると、日々そのことを意識させられます。「したいこと? 特にないなあ。 楽しいこと? うーん。食べたいもの? 何でもいいわ」。母は何を聞いても、こんな調子なのです。
 介護セミナー講師の助言は、(1)社交(2)趣味(3)バランスの良い食事(4)適度な運動の4項目。最近では、睡眠の重要性も強調されています。睡眠中に認知症の原因となる脳内のタンパク質のゴミを洗い流して、蓄積を防いでくれるというのです。
 いずれも思い当たる節がありました、家事育児と仕事と信仰を両立していた母は、 代から睡眠時間が3、4時間と極度に短く、 代になってからは趣味も運動習慣もなく、仕事一筋でした。
 母の二の轍を踏まないように、介護を始めて以来、睡眠はできる限り、8時間確保するようになりました。年を取っても、続けられる趣味や運動習慣を作っておこうと、最近、沖縄の民族楽器の三線やボルダリングを始めました。会社の仕事が中心だった 代からは大きな転換です。
 ただ、これらは認知症予防には一定の効果はありそうですが、 歳や 歳になっても、未来を向いて生きるには十分ではなさそうです。
 最近、ビジネスや教育の分野では「GRIT」(やり抜く力)という能力が注目されています。やり抜く力を支えるのは、継続的な粘りと夢中になれる目標だと言います。大竹さんの姿勢に近づくには、この夢中になれる目標を見つけ、楽しみながら追求していくことが大切、そんな気がします。
 認知症の介護は、人生の勉強です。母は親の最後の務めとして、背中で人生の幕の引き方を教えてくれています。子どもとしては、介護をしながら、自分の 、 代の生き方を準備する猶予を与えられているようなものです。
 泣いても笑っても、介護は介護。皆さんもせっかくなら、苦痛や重荷と受け止めず、恩恵と捉えてみてはいかがでしょう。介護の学びも、「未来を語る 代」につながるはず。そう信じています。
 連載は今回が最終回です。長い間、ご愛読いただき、誠にありがとうございました。また、どこかでお目にかかれることを楽しみにしています。(終わり)

前=本能的 遠距離介護㉙

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