特別寄稿 本能的 遠距離介護②

マイナス情報 受け止める勇気を  本能寺 逢休

特別寄稿 本能的 遠距離介護②

 神戸で独り暮らしをしていた母は、病院の受診を拒み続けました。私はこっそり、母のかかりつけの眼科に相談に行きました。症状が表れてからすでに3年がたっていました。

 そのとき、担当医に言われた一言はいまだに忘れられません。 

 「よく気がつかれましたね」

 この眼科には、高齢で認知症の患者も多く、病院側が症状に気づいて、家族に連絡をすることもあるそうです。

 ところが、せっかく連絡しても、家族が「うちの親に限って」と認知症を認めようとしないケースが多いといいます。場合によっては「侮辱された」と受け取り、怒り出す家族もいるのだとか。

 眼科では、私の母の異変にも半年前から気づいていたものの、家族を怒らせた前例があるので、私に連絡をしようかどうか躊躇していたといいます。そこに私が訪ねてきたので、「よく気が――」となったのです。

 家族が早めに異変に気づくためには、普段から親とコミュニケーションを取っておくことが大切です。

 普段、どれだけつじつまの合う話ができるのか、物忘れの程度がどれくらいかを把握しておけば、異変が起きたときに、比較ができます。 

 私の場合、母に認知症の症状が表れる直前は、ブラジルに赴任していましたが、両親とは数か月に1度、事務的な連絡をするだけでした。今では猛烈に反省しています。

 認知症を発症してから、急に電話をする回数を増やしたのですが、母の方は「何の用や?」「用もないのに電話せんといて」とすぐに電話を切ろうとします。

 発症直後、認知症の疑いがあると告げたところ、母は激昂しました。以降、「親を無理やり認知症に仕立てようとしている」と不信感を抱かれてしまい、電話をかけても「認知症かどうかのテストをしようとしている」と警戒されるようになったのです。

 普段から近況報告をする関係を築いておけば、電話での見守り確認ももっとスムーズにできたはずです。月に1、2度は連絡を取り合っておくべきでした。

 家族として覚えておきたいのは、認知症の症状は日によっても、また、同じ日でも時間によって大きく変化するということです。

 私の母は、認知症の初期段階では、普段は日常生活を問題なく送り、会話の受け答えもしっかりしていました。

 母に認知症の疑いがある。親戚に相談しても、「あんたのお母ちゃんはしっかりしてはるで」と一笑に付されてしまいました。

 そうして、しっかりしている日や時間帯があるかと思うと、あるとき、突然、異変が顔をのぞかせます。

 ▽本棚を私に譲ったことを忘れて、「無理やり没収された」と怒り出す▽スーパーで何を買えばいいのかわからなくなり、レジの付近で立ち尽くしたまま帰ってこない▽親戚からの現金書留を郵便局員から受け取ったことを忘れてしまい、「配達ミスだ」と郵便局に怒鳴り込みにいく――。母に起きた異変の一例です。

 ある瞬間だけを切り取って、親がしっかりしているからといって、安心はできないのです。

 認知症の初期に、家族が症状に気がつかないのは、「正常性バイアス」のワナに陥っているからかもしれません。

 自分の親や配偶者に異変が表れても、認知症と認めるのが怖いので、加齢による物忘れだと思い込み、マイナス情報から目を背けてしまう。そんな自己防衛本能です。

 親の認知症を認めるのは怖いかもしれません。見て見ぬ振りをしておけば、一時的に不安からは解放されるかもしれません。しかし、その間にも、病状はどんどん進行し、後の介護がもっと大変になります。場合によっては、命を落としたり、事故で他人を巻き込んだりすることもあります。

 人間は誰しも認知症になる可能性がある。そのことを胸に刻み、親の異変を目撃した場合には、認知症を想定しながら、注意深く、二つ目、三つ目の異変に目を光らせ、記録を取り続けてください。マイナス情報をしっかりと受け止める勇気も必要です。(つづく)

 本能寺逢休(ほんのうじ・あいく)=元新聞記者、2007―2009年リオデジャネイロ赴任。神戸で独り暮らしをしている母親を6年間、遠距離介護。その体験を「遠距離介護1」(www.amazon.co.jp/dp/B01HWPDOGM)にまとめて電子書籍で出版。介護関連の電子書籍に「遠距離介護2」、「認知症介護でビジネス力69%UP」がある。

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2017年6月3日付

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