特別寄稿 本能的 遠距離介護⑧

介護のDIY 断捨離で大ゲンカ 本能寺 逢休

特別寄稿 本能的 遠距離介護⑧
母の実家から出たゴミ。断捨離しても、退去時には、3.5トントラック1台分のゴミが出た

 母が、検査を頑として拒み続けたので、認知症の発覚から、介護保険を使った1割負担のサービスを受けるまでに3年半もかかってしまいました。

 その間にも、認知症は少しずつ進行し、日常生活のトラブルも増えていきます。家族としても手をこまねいてはいられません。介護をDIYすることにしました。

 発覚直後は、2、3か月に1度、帰省して、母の行動をじっと観察することに努めました。「何か困っていることない?」。そう尋ねても、「何を言っているんですか。ちゃんと独り暮らししてますよ」と鼻で笑われるのが落ちです。

 独り暮らしをしているので、認知症ではない。そういう理屈です。認知症の初期には、病気の自覚がないことが多いといいます。生活で困っていることがあっても、その場を取り繕ったり、記憶を引き出せなかったりするので、ポルトガル語で言うところの「ノン・テーニョ・ネニュン・プロブレマ」(まったく問題ない)となるわけです。

 もちろん、問題は大ありでした。母は毎日、探し物をすることが増えました。鍵、財布、郵便物……。ときには数時間にも及びます。

 「ちきしょう。健忘症もここまで来たか」。加齢による自然な物忘れのせいにして、ブツブツ言いながら、あちらこちらの引き出しをあさっています。喜劇のようでもあり、悲劇のようでもあり、せつない光景です。

 置き忘れが増えたのは、短期記憶を呼び出せなくなっただけではなく、情報処理能力も低下しているからではないか――。そう直感しました。

 当時、母の家は、不要な家具や雑貨、本であふれ返っていました。父の死後、防犯上の理由で、郊外の一戸建てからマンションに引っ越しました。その際、大量の不要家具や雑貨をほぼそのまま、運び込んだのです。本や雑誌は5000冊、本棚7架、ローテーブル3脚、キャビネットや衣装ボックス多数……。家の中はさながら、ゴミ屋敷でした。

 情報処理能力が低下しているところに、脳に飛び込んでくる視覚情報が多すぎるので混乱に陥っている。旧式の容量の少ないコンピューターで、大量の情報を処理しようとして、フリーズさせてしまう。そんな状態に似ていると考えたのです。

 収納スペースを大幅に減らせば、探すべき場所も限定され、見つけるまでの労力や時間も少なくなるはず――。家具や雑貨を必要最低限まで減らす「断捨離」作戦を決意しました。

 帰省した際に少しずつ、家具を処分しようとしたのですが、計画の前に大きな敵が立ちふさがりました。母です。

 「ひょっとしたら、必要になるかもしれない。あとで決めるので、そのままにしといて」。そう言って抵抗するのです。

 一軒家からマンションに引っ越すときも、捨てる、捨てないをめぐって、似たようなやり取りがありました。埒が明かないので実力行使に出ようとして、怒鳴りあいのけんかに発展、そのときは結局、私が折れました。

 「あとで考える」「あとで決める」。母が口にしていた「あとで」は、引っ越しから半年たち、1年たっても一向に訪れませんでした。不要か必要かの判断ができないので、結論を先延ばしにしていただけなのです。

 困ったことになりました。母は、自立と権利を大切にしていて、自分の了承なしにものごとを決められるのを何よりも嫌います。しかし、事前に計画を相談すると、金切り声で反対されてしまいます。

 私の目には、認知症で記憶力と情報処理能力が低下し、家具や持ち物が多すぎるので、余計に探し物が増えている、そう映ります。

 ところが、母にとっては、自分は認知症ではなく、探し物もしていないので、問題は存在しないのです。何も困っていないのに、どうして私のものを勝手に処分しようとするのか。権利の侵害以外の何ものでもありません。

 家族と認知症患者、互いに見ている景色が違うので、話し合いをしても、合意など得られるはずもないのです。出口の見えない迷路で立ち往生しているときに、脱出への道筋を照らしてくれたのは、グリム童話でした。(つづく)

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2017年7月22日付

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