特別寄稿 本能的 遠距離介護⑫

生命と財産優先 60点の介護目指す 本能寺 逢休

特別寄稿 本能的 遠距離介護⑫
机の上に散乱した2種類の目薬と、母手製の点眼チェック表(右)。予備の目薬を片付けても、すぐに全部引っ張り出してくる

 老親の介護は、精神的に疲弊します。相手はだんだん子どもがえりしていき、予想もつかない行動に出て、ものを壊したり、ケガをしたり、ぼや騒ぎを起こしたりします。完璧にこなそうと思うと、きりがなく、肉体的にも精神的にも参ってしまいます。

 特に遠距離介護では、物理的に隅々まで目を行き届かせるのは不可能です。最初から100点満点の50点から60点を目指し、優先順位をつけたメリハリのある介護をすることが大切です。

 私が最優先したのは、生命や財産を守ること。それ以外は、多少のトラブルが発生しても、笑って受け流すようにして、ストレスをため込まないようにしました。

生命を守る。まずは持病と常用薬の把握が急務です。私の場合は、母が認知症を認めず、病気や病院の話題を極度に嫌っていました。仕方なく、室内に置いてある薬の袋と説明書から、かかりつけ医を割り出し、こっそりと会いに行きました。

 患者のプライバシーを盾に追い返されるかと思いきや、家族と名乗ると、あっさりと診察室に通されました。かかっていたのは眼科だけ。大したことはないだろうと、高をくくっていたら、驚くべき事実を告げられました。母は緑内障で右目の中央と、左目の下部4分の1の視野が欠け、点眼を怠ると、半年から1年で失明すると言うのです。

 70代で認知症を患っていては、これから点字を覚えるのは至難の業です。このうえ、耳まで遠くなると、コミュニケーションが取れなくなり、寝たきり街道まっしぐら。そんな地獄絵図が浮かんできます。

 服薬管理が最優先事項に昇格しました。母は生真面目な性格で、ノートに手製のチェック表を作り、1日3回、目薬を点眼するごとに時間を書き込んでいました。差し忘れたときは空欄に斜線を引いていたのですが、斜線が9回連続していたこともあり、かなり危ない状態でした。きっと専門書の執筆に夢中になって、目薬のことまで頭が回らなかったのでしょう。

 点眼の徹底のためにセーフティーネットを張ることにしました。1日3回、妻と交互に母に電話をかけて、点眼を促すのです。最初は、目薬チェック表を確認してもらい、まだ記録がないときだけ点眼をお願いしていました。そのうち、チェック表の記載も当てにならないことに気づき、毎回、必ず点眼を促すようにしました。

 複雑だったのは、目薬が2種類あったことです。緑のキャップのチアブートと、薄だいだい色のラタノプロスト。母は、予備の目薬をすぐに引っ張り出してくるので、机の上には、2種類の目薬が計八つも混在していました。母にチアブートを点眼するように促しても、数が多すぎてどれかわからず、すぐに慌てふためき、怒声を響かせます。薬の名前を告げても、どこに薬名が書いてあるのかわからないと金切り声を上げます。キャップの色で指定しても、緑と薄だいだい色を平気で勘違いする始末です。

 電話では、母が手に何色のキャップを握っているのか、そもそも手にしているのが目薬なのかどうかもわかりません。母に喧嘩腰で反論されると、指示を出しているこちらもイライラしてきて、ついつい厳しい口調に。すると、母は余計に慌てふためき、「あとでやっとけば、いいんでしょ」と言って電話を切ってしまいます。これでは本当に点眼しているのか、確認のしようがありません。

 窮地を救ってくれたのは、冷静な妻でした。「緑のキャップや言うてるやろっ」。母と罵り合いをしている私からさっと携帯を取り上げます。「お義母さん、今、手に握っている目薬、そこに何か書いてます?チアブート?あ、それです。それを目に差してくださいね」。あっという間に解決してしまいました。

 こちらの指示が伝わらないのであれば、相手に目薬を一つ一つ手に取らせ、薬名を読み上げてもらえばよかったのです。介護は相手に合わせた柔軟な対応が大切。いつも周囲にそう言い続けていたのに、二者択一で正しい目薬を選べない母にいらだち、すっかり冷静さと柔軟さを失っていました。(つづく)

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2017年8月19日付

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