特別寄稿 本能的 遠距離介護⑭

高機能エアコンで熱中症対策 本能寺 逢休

特別寄稿 本能的 遠距離介護⑭
高温防止機能付きエアコンのリモコン。高齢者でも操作しやすいように文字が大きく、ボタンがシンプルになっている

 2014年の夏、母の家に様子を見にいくと、リビングのドアを開けた瞬間、むっとした熱気と湿度が飛び込んできました。一瞬、気が遠くなりかけました。母はと見ると、食卓の椅子に下着姿で座り、「暑い、暑い」と言いながら、うちわを扇いでいました。

 暑いはずです。リビングは南向き、まばゆいばかりの陽光が床に差し込んでいます。窓はぴたりと締め切られ、エアコンは頭上で静かに羽根を閉じたまま。これで炭でもあれば、完全にサウナ風呂のでき上がりです。

 認知症発症から4年半、母のちぐはぐな行動には、すっかり慣れっこになっていましたが、猛暑日に室内で「1人我慢大会」をしている姿を見て、嫌な汗が出てきました。暑いという認識はあるものの、窓を開けたり、エアコンをつけたりすると、室温を下げられるという発想はないようです。服を脱ぎ、うちわで扇ぐという昭和の根性主義で、暑さと真っ向勝負していました。このままでは、熱中症で倒れて命を落としかねません。IT機器を活用して、東京から神戸の母を見守ることにしました。

 頼りになるのは、やはり見守りカメラです。4台のうちの1台には、環境センサーで揮発性有機化合物(VOC)の濃度を測定し、「良い」「ふつう」「悪い」の3段階で知らせてくれます。VOCは、高温・密閉状態で濃度が高くなるといわれています。スマートホンやタブレット端末に「悪い」と通知が来ると、母に電話をかけて、ベランダの窓を開けて網戸にしたり、エアコンをつけたりするように促しました。

 ところが、母は毎回、電話口で「えー」と不満げな声を発します。6階に住んでいるのに、窓を開けっぱなしにするのは物騒だというのです。エアコンも、風が冷たくて嫌だと言い張ります。熱中症の危険性を説いても、「大丈夫よぉ。大げさな」の一点張り。毎回、押し問答が続きました。

 ようやく、お願いを聞き入れてくれたと思っても、数分後には、タブレット端末に「室内で動き検知」の通知が入ります。画面を開くと、母が窓に近寄って鍵をかけていたり、エアコンのリモコンを切ったりしています。「息子に言われて嫌々従ったけど、すぐに元に戻したろ。どうせ、東京にいる息子にはわからんから、ええやろう」。子どものような小ずるい発想が透けてみえます。

 しばらく、いたちごっこが続きました。問題を解決してくれたのは、ここでも、IT機器でした。気温が28度を超えると、自動的に冷房が入る「高温防止機能」付きのエアコンの存在を知ったのです。早速、インターネットで購入し、母の自宅に取り付けました。

 エアコンはしっかりと任務を果たしてくれました。母は、エアコンが自動的に作動すると、一生懸命、停止ボタンを押していましたが、エアコンはどこ吹く風で仕事を続けています。自分で止められないとなると、母は血相を変えて、親戚や私のところに電話をかけてきました。

 「機械が人間の生活を支配している。こんなん本末転倒です。絶対に認められへん」。まるで現代文明に一石を投じるかのような物言いです。松本零士のSF漫画「銀河鉄道999」に石でできたコンピューター回路に人間が支配される惑星が出てきたのを思い出しました。エアコンが勝手に作動して止めることができない――。本当はそう言いたいのですが、認知症に混乱が加わり、うまく言葉にできないのです。

 熱中症対策には、水分補給も不可欠です。ネット通販で箱買いした「経口補水液」を母の自宅に直送し、帰省時に冷蔵庫に移しておきました。あとは1日3回、母に電話をかけて冷蔵庫の経口補水液まで誘導するだけです。

 脱水になると、「せん妄」と呼ばれる意識障害を起こし、認知症に拍車がかかったように、突然、会話のつじつまが合わなくなることもあります。母は朝、起き抜けによく、せん妄に陥りました。そんなときも、ゾンビのようにふらふらと歩いている母を経口補水液まで誘導しました。1杯飲んだだけで、会話がすっと通るようになるときもあり、水分補給の大切さを目の当たりにしました。(つづく)

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2017年9月2日付

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