特別寄稿 本能的 遠距離介護⑲

銀行での預金保護 諦めない心が大切 本能寺 逢休

特別寄稿 本能的 遠距離介護⑲
母の引き出しから出てきた繰越済みの通帳。繰越済みや解約済みの通帳を処分し、現在、利用している金融機関とその通帳を探すところから防犯対策は始まる

 ある日、銀行から携帯に電話がかかって来ました。

 「お母様のお兄様と名乗る方から電話がありました。通帳をなくして再発行してほしい。今からお母様が自ら銀行に行くので対応してほしいとのことでした」

 銀行の担当者には、母が認知症を患っていることを伝えており、異変を察知して連絡をくれたのです。結局、母は、銀行に顔を出すことはありませんでした。伯父に連絡を取ったところで、記憶が途切れてしまったのでしょう。

 二つの意味で胸をなで下ろしました。一つは、母が多額の現金を引き出さなかったこと。もう一つは、銀行との信頼関係がようやく芽吹いてきたことです。

 母が認知症を患い、判断能力が低下している。犯罪予防に協力してほしい――。母に内緒で銀行に相談に行ったのは、2013年1月。母が認知症を発症して、3年が経過していました。

 最初は、けんもほろろの対応でした。預金者である母の意向が確認できない以上、防犯対策は取りようがない。原則論でばっさりと切り捨てられてしまいました。認知症というなら、病院で診断書を取って成年後見制度を利用すればいい。それなのに診断書を取ってこないのはなぜなのか。不審の目を向けられたこともありました。

 認知症になったら、病院での診断をへて、要介護認定を受け、治療や介護を始める。判断能力がなくなってきたら、成年後見を付けて財産を守る。そうした手順が、教科書のようにトントン拍子に進んでいく。そう思い込んでいるようです。

 認知症患者にも、自尊心や感情があり、簡単には病気を認められないこと。病院行きに必死で抵抗する高齢者も多いこと。そうした認知症の実態がまったく理解されていないと痛感しました。高齢者の4人に1人が認知症かその予備軍と言われている時代だというのに――。

 絶望と怒りで頭が熱くなりましたが、諦めませんでした。記者の仕事で、役所を取材することが多く、木で鼻をくくったような官僚的対応には慣れていました。取材を通じて、大切な真理も学んでいました。担当が変わると、対応も変わる可能性があること。そして、担当によっては、何度も通い詰めることで態度を軟化させ、原則を曲げて柔軟に対応してくれる場合もあることです。

 最初は、本店のお客様相談課に相談しましたが、ここはさっさと見切りをつけ、母が独り暮らしをしているマンションの最寄り支店に足を運びました。予想は的中、2度目の面談で事態は大きく進展しました。

 母の通帳を使って窓口で現金を引き出す際には、身分証の確認を求めるように銀行員の端末画面に警告を表示させる。そういう設定をかけてくれたのでした。これなら、通帳と印鑑を盗まれても、不正引き出しを防げます。本店では、預金者本人の同意がないと、銀行としては何の対策も取れないと、その一点張りでしたが、やはり、奥の手があったのです。

 母の元には年2回、銀行預金の取引レポートが送られてきます。不正引き出しをチェックするため、同じものを1部、私の住所にも送ってほしいともお願いしました。この要求は却下されてしまいましたが、母の病状について情報共有できたこと、そして、この面談以降、銀行が母の動きに目を光らせ、折に触れて、私に連絡をくれるようになったことは大きな収穫でした。

 行政、銀行、ケアマネジャー……。認知症への無理解は様々なところに広がっています。諦めることなく、駄目で元々の精神で、交渉を続けることが大切です。

 私が銀行の幹部なら、「認知症見守り預金」なるサービスを始めます。家族から認知症の疑いがあると申し出があれば、診断書がなくても、遺産相続の対象となる家族全員に毎月預金の取引記録を郵送するのです。これにより、複数の目で、不正引き出しや振り込め詐欺などの被害を定期的にチェックできます。取引記録の閲覧だけで、引き出しは絶対にできないようにしておけば、家族による不正防止も図れます。

 病気を発症しながら、病院受診を拒み続ける「隠れ認知症」の高齢者の存在に、行政や企業がもっと目を向け、彼らの財産を保護する制度が整備される。そんな時代が来ることを心から願っています。(つづく)

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2017年10月7日付

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