環境と気候変動② 規制を忘れている政策  成田修吾

 2009年3月に日本総研が発表したレポートがある。それによると、意外にも日本企業関係でも地球温暖化や気候変動に無関心であることが明記されている。おそらく、ブラジルの企業関係でも同じことが言える。いやむしろ、現実から逃げている企業が多すぎる。

◆気候変動の「緩和」と「適応

 気候変動が経営に与える影響について、企業の環境二酸化炭素削減関連の部署の人と意見交換を重ね、驚くことが2つある。1つは、「この経済状況でも、温暖化の規制は進みますか」という第一声。もう1つは、「気候変動の与える物理的な影響については、あまり考えていませんでした」という答え。

 後者の答えについて、「それどころではありません」ということを申し上げたい。そもそも、気候変動の物理的影響が深刻になるからこそ、規制が存在していることを忘れていないだろうか。

 気候変動は、「緩和」と「適応」という2つの側面で企業や個人を含む社会全体に関わっている。「緩和」は、温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動の影響を緩和すること。「適応」は、変動する気候の条件に諸活動を順応させることである。省エネルギー、再生可能エネルギーの導入や排出量に関する規制、温室効果ガスの吸収源である森林の保全は、「緩和」のための方策である。「地球温暖化」と聞いて、ほとんどの人が想起するのはこうした「緩和」関連の政策や規制、努力であろう。

 しかし、「緩和」という表現が物語るように、地球温暖化はもはや進行しており、それを緩やかにすることはできても急に止めることは不可能だ。人類がどれほどうまく「緩和」策を実行して温室効果ガスの排出量を削減し、大気中の温室効果ガス濃度をCO2換算500~550PPMに安定させることに素早く成功したとしても、温暖化は一定レベルまで進行する。

 企業レベルで言い換えれば、素晴らしい削減策を実行し、温暖化対策でトップ企業と称賛され、低炭素社会の実現に寄与したとしても、好むと好まざるとに関わらず顧客や社員を含む人々の生活の前提条件(気温、降水量、海面など)が変化する。

◆水に関する物理的影響

 気候変動の物理的影響とは、海面上昇や異常気象など気候変動により生じる物理的現象が、人間社会や生態系に与える影響のことを言う。それに対し、危機感を抱く企業や、企業経営との関係に関心を持つ投資家・金融機関も少しずつ増えている。物理的影響の範囲は広いが、ここではまず「水資源」に注目する。

◆温暖化進展が淡水資源に大きな変化

 気候変動に関する各種予測できるシナリオが共通して示している傾向のうち、降水に直接関するものには、「大雨・豪雨が増える」「異常な乾燥が起こる場所が出る」「熱帯性低気圧の総数は減るが、強いものが増える」「長梅雨のパターン出現率が高くなる」などがある。

 すでに気温上昇により、氷河の融解、雪の減少・雪解け水の減少が観察されている。これは、自然の保水能力の低下を意味する。

◆資源問題の加速

 水資源への需要は人口増加と経済発展によりもともと拡大していたが、温暖化により加速される。例えば、干ばつや雪解け水の減少により灌漑用水の需要が拡大したり、気温の上昇により冷却水の必要量が増加したりする。

 供給サイドは、既に需要過多により地下水面の低下などの事態に直面している。これも温暖化により加速する。降水のパターンや強度の変化が、地下水面の大幅な低下をもたらすという研究報告もある。生態系の脆弱性が増すために、水の濾過機能や洪水のバッファとしての機能が低下する。また、異常気象や海面上昇により水関連のインフラが被害を受けるが、現在のインフラでは耐えられないこと、消費以外の水利用にも悪影響が出ることも考えられる。企業にとっては利用可能な水の量が減ったり、費用が上昇したりするほか、操業ライセンスにも影響する。

 水質の面では、特に開発途上国で汚染が深刻になっている。さらに、気候変動による洪水の増加や海面上昇、気温上昇を通して、塩害、バクテリアや藻の発生、土壌浸食による水質汚染、汚染された水に伴う下痢の増加などが想定される。企業にとっては水の浄化費用の上昇や操業規制、国によっては従業員の健康管理などの影響が出る。

◆影響を受ける業種

 多量の水を必要とする産業として、半導体、飲料、農業、電力、衣料品、バイオテクノロジー、医薬品、製紙、鉱業などが挙げられる。例えば、半導体では世界の14の大規模製造拠点のうち、11がアジア太平洋地域に所在するが、この地域での水問題は特に深刻と言われている。飲料では、ネスレが「燃料よりも先に水を使い果たすだろう」と発言している。

 パソコンメーカーは重要なサプライヤーである半導体が水集約産業であるが、デルやヒューレット・パッカードではそうした情報開示は行われていない。(つづく)

2017年4月20日付

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