環境・科学④ 炭素排出を5億トン防いだ伯国  成田修吾

 ブラジルは2006年から10年にかけて、森林減少からの炭素排出を約5億トンも防いだことは世界からも大きく評価されていた。その頃のブラジル政府リーダーたちが行った行政指導は、次のような内容だった。

 指導内容も余力を持つもので、森林伐採事業で利益を得る起業家たちも、森林法を遵守していた。 

 (1)監視体制の改善(2)保護区の劇的拡大。特に伐採や農業、牧場からの開発圧が非常に強い地域の近隣で拡大した(3)大豆や牧畜の需要ショックを抑制するよう、市民社会や市場からのビジネス界に対する圧力が増加(4)森林法執行の強化。と言った内容だった。あれから7年後になって、企業家たちは無政府状態をいいことに、再び森林破壊への道を歩み始めている。そこには罪悪感もないのだ。

 米トランプ大統領は就任以来、「アメリカ・ファースト」を訴え、世界協調よりも自己主義を優先するあまり、環境保全問題で世界が条約を結んだ昨年の「パリ条約」からの離脱を宣言して、地球環境がどうなろうが、アメリカさえ生き残ればいいと言わんばかりである。無政府に近い状態にあるブラジルで、木材を必要とする大企業家たちは、このトランプ氏のマネをしようと考えているのだろうか。

 かつて、ブラジルでのREDD+(レッドプラス=途上国が自国の森林を保全するため取り組んでいる活動に対し、経済的な利益を国際社会が提供する)事業、つまり森林の減少・劣化を阻止することによって温室効果ガスの増加を抑制するREDDの取り組みに加えて、森林保全や植林事業を推進することによって炭素貯蔵量を増加させる計画が気候変動を加え、森林を守り、停炭素方経済を推進する装置になりえるか、その事例がブラジルで行われた。

 ブラジルは森林減少の抑制に見事な成果を収めてきた。06年から10年にかけてアマゾンでは、それ以前の5年と比べ森林減少率が半分以下となり、5億トン以上の炭素排出抑制となった。意義深いのは、この削減が農業生産増及び貧困削減と両立している点にある。やればできるのだ。なぜそれを維持できないのだろう。

 パフォーマンス準拠型支払いの原則に則ったREDD+への資金供与が最近登場してきたことは、この文脈で見ると、極めて時宜を得たものだった。

 暗殺された熱帯林保全活動家で、ゴム樹液採取労働者のリーダーでもあったシコ・メンデスの故郷アクレ州は、革新的な「生態系サービス支払い(PES)―REDD+プログラム」によって突出した存在である。このプログラムは、WWF(世界自然保護基金)をはじめとした様々な市民組織や政府組織との広範囲な協議に基づき設計された。他の自治体で見られるプロジェクト別アプローチを採らず、アクレ州政府はまず州全体のREDD+プログラムのアプローチを定めることを手がけたのである。このプログラムの目標は20年までに森林減少を80%減らすことにあり、これはCO2(二酸化炭素)排出量を最大で1億3300万トン削減することになる。

 10年末までに2000世帯以上がこのプログラムに参加している。森林を保全する代わりに、彼らは金銭的インセンティブや持続的な生計手段の開発に対する支援を受けられる。支払い方法は認証済みのパフォーマンスに基づく年払いとなっており、生計支援については農業生産に対する技術的援助やマーケティング支援も含まれる。ゾーン分けのシステムによって最も脅威にさらされている森林が特定され、このプログラムを広げていくことがこの地方での優先事項の一つとなっている。

 この「PES―REDD+プログラム」は、資金の流れとサービスを優先地域で環境サービスを提供している人たちと直接結びつけるものであり、それが国家目標にも直結している。生物多様性や水循環といった他の環境サービスに価値を与えることを目指した、より大きなシステムの一部なのだ。その前提には、REDD+が最も有効に機能するのは低炭素型持続的開発のためのより広範な一連のインセンティブの一つになっている場合、という考え方だ。(参考:WWF)

 このようにWWFが投資したブラジルの事業では、世界的にも反響が大きかった。ところが、様々な問題があることが分かり、これから解決して地球を守る対策を講じようとした矢先に、ブラジルの腐敗政治が露見してから森林破壊を続ける企業への抑制が止まってしまったのである。

 今、森林減少を止めるアクションを起こさなければ、地球の気温上昇を2℃未満に抑える機会は永遠に失われる。CO2削減目標の達成は、大気中へのCO2排出を削減する主要な要因の一つとなろう。「生きている森林モデル」の計算では、20年までにCO2削減目標を達成することは技術的に「実現可能」だと言われているが、REDD+の制度を広く実施していくことでこの目標を「現実的」なものとする手法の一つとなる。生きている森林レポートで指摘されたように、熱帯の国々で起きている森林劣化と減少は、主たる環境問題であり社会問題であり経済問題である。

 そして、アクションが行われなければ、その状況は続く。温帯林及び寒帯林の管理の改善や、農業生産性の持続的向上、無駄な消費の削減、そして食習慣の変化と共に、REDD+はCO2削減目標達成のための効果的戦略の一つなのである。REDD+は現在、重要な政治的事項の一つに位置づけられている。政府、民間セクター、そしてあらゆる関係者は、REDD+を今すぐ発展させるこの機会を捉まえるべきだ。私たちが、自然資源の基盤をさらに枯渇させ、大気中により多くのCO2を排出してしまう前にである。

 何よりもまず、森林減少の国際的なドライバーの問題解決がREDD+を実現させる根本的条件であると認識し、この問題に取り組まなければいけない。そうでなければREDD+のプロジェクトは、例えばバイオ燃料のための土地強奪といった真逆の結果を促進させかねず、そのためにREDD+全体の有効性が損なわれてしまう恐れがある。次に、REDD+体制は原則に従い、厳格な環境及び社会的セーフガードの下で実施されなければならない。そうしなければ、潜在的便益をすべて現実のものとすることはできないだろう。(つづく)

2017年6月30日付

コメント0

コメントを書く

Login

Welcome! Login in to your account

Remember me Lost your password?

Lost Password