【座談会】第1回「ブラジル社会に日系コロニアは必要か?」④

 阿部志朗(2世)
 「日系コロニア」。子ども時代から聞きなれていて、他の単語が浮かばないのだけれど、もう少し適当な言葉はないのでしょうか。日系社会は必要です。むしろ世代を重ねるほど、ますます発展するべきだと思います。
 祖国・日本は世界第2の経済大国となり躍進、発展しているのに、ここブラジルでわずか3世代くらいで日系社会が衰退の一途をたどるのはあまりにもだらしのないことです。これは民族の恥ではないか。日系社会が必要な理由は、この民族の優れた資質を失ってはならないからです。

 ありがたいことに、ここブラジルにおいて、ブラジル人より日系人のほうが信頼され尊敬されています。これは我が民族の名誉であり、金で動かすことのできない民族の財産なのです。我らはこの先人たちの築き上げた信用を裏切ってはなりません。

 文章によって記された6千年の人類史をたどるとき、東西古今の民族は理想郷を求めて移動を繰り返してきました。そしていずれの民族も文明と技術をその地に花咲かせ、新天地の繁栄と発展に貢献してきたのです。

 我らが日本民族のここ100年の歴史を辿るとき、この民族は優れた資質に恵まれた民族だと考えざるをえないのです。1868年の近代化開始の時点において電気も金属機械もなかった日本が、わずか40年後には太平洋最強の海軍を独力で整備して東アジアの覇者となり、五大強国の一員となっていたのです。

 また、敗戦によって何もかも失った日本がわずか20年後には世界第2の経済大国として鮮やかに蘇り、世界の歴史家から20世紀の奇跡であると言わしめたのです。1868年の近代化から100年後の1968年の時点において資源も何もなかった小国が、全世界の自動車の総生産の3分の1を、家庭電器器具の総生産の3分の1を生産していたのです。我らはこの民族の血を受けた日系ブラジル人なのです。それこそが、我らがブラジルの振興と発展に貢献することができる部分です。

 ブラジルの日系社会も頑張って剛健なる後継者を育てなければなりません。大事なのは民族の誇り、民族の魂なのです。日本民族の文化・教養の独自性を失ってはなりません。携え鍛えた日本の文化をこの新天地の繁栄に貢献しなければならないのです。これは我が民族の名誉を賭けてのことであり、意地でもあります。

 ユダヤ民族は幾たび祖国が滅亡しても、祖国の民族の教養と文化の伝統を失いませんでした。この違いはどこにあるのか? それは、剛健なる後継者の教育を忘れなかったからです。それにひきかえ、祖国である日本は繁栄を極めているのに、日系社会の衰退を憂えなければなりません。この民族のだらしなさは恥ではないか。日系民族の社会組織を失ってはならないというのが私の考えです。

 清原健児(2世)
 子供の頃、田舎で日本文化を学びました。日本語学校には行っておりません。ブラジル社会はアラブ系、ユダヤ系、イタリア系の文化を大切に守ってきています。日本社会については一昨年、移民100年祭を迎えました。外から見ていても日系コロニアはブラジル中で認められており、ブラジル社会で誰もが知っている。

 ちょうど日本移民100年の頃、ブラジルではポルトガルの王様がナポレオン帝国に攻められてブラジルに逃げてから200年を迎えました。もしもポルトガルの王様がブラジルに移動しなければ、ブラジルは他の南米諸国のように小さな植民地の一つでしかありませんでした。しかし、ポルトガルの王様の移動200年はブラジル社会にあまり知られていないと私は思います。
 日本移民100年はブラジル人によく覚えられています。日本文化はブラジル社会から認められていますから、今後もこういう役目を守っていくことが我々の使命ではないかと思います。

 

 伊東信比古(1世)

 過去の日本人の方が残してきた功績で一番重要なのは農業だと思いますが、農業に限らずブラジルで功績を残された日本人を全体的な意味でまとめて、これからの若い世代に残していってほしいというのが私の希望です。
 永田敏正(1世)
 私は、現在の日本が本当に素晴らしいかどうかということに疑問があります。NHKのニュースなどを見ていましても、こんな日本の状態をブラジル人に自信を持って教えられるのかと疑問を持っています。皆さんの話を聞かせていただいて、2世の方でこれだけ日本の素晴らしさをお話される方がいる。私たち1世は恥ずかしいですよ。私たちの知らないことまで研究されていらっしゃる。

 コロニアの歴史と背景を知って、どうすればよいかを考えることが論点だと思います。例えばコロニアが日本に住む日本人に対して、「ブラジルへいらっしゃい」という形でアピールしていくべきなのか、それともブラジルに対して日系社会がこういうことをやっていますという素晴らしさをアピールするべきなのか。

 例えば、現在ハイチの地震で数多くの被災者がいますが、その被災者募金を文協が窓口となって受け付けてみてはどうでしょうか。阪神大震災の際にはブラジルに住む日系社会の人が義援金を送りましたが、そういったことをこのブラジル社会で、日系コロニアが中心となってやれないか。その際には活動をどう宣伝するか。

 また、剣道、柔道、空手、お茶、太鼓などの日本文化についてですが、果たしてこれから100年先までブラジルで継承していくことができるのか、という点も疑問に感じます。全体と個人との活動を見た場合、個人でいくら良いことを行ったとしても、いくらブラジルで一生懸命働いて儲けたとしても、日系人の素晴らしい風評をブラジル社会に与えることはできません。それを集団にして、日系社会全体として活動していく必要があるのではないでしょうか。

 小山昭朗(1世)
 今日集まった方々は、ほとんどの方が日系コロニアは必要だと思っているんです。もし不要だと思っていたら、座談会には参加されないと思いますので。コロニアはブラジル社会にとっても日系社会にとっても必要なのですが、なぜコロニアが必要なのかということを考えなければならないと思います。それが分かって初めて、これから日系人はどんなことをしていくことができるのか、という話し合いができるようになるのではないでしょうか。

 日系社会の存在価値はたくさんあるのですが、その中で一番大切なことは、我々のような日系社会を必要だと思っている人間が考えても実はだめなんですね。私の知人でブラジルに移住してきたけれど、一切日系人のコミュニティーと関わりを持たないという人がいます。ブラジル人と結婚し、ブラジルの社会に入って日本人との付き合いはまるでありません。そういう人と話をしてみると、我々がはっとするような新しい発見があったりするんです。コロニアの将来を考えるときに、こういう新しい物の見方も必要になるのではないでしょうか?

 もう一つ私がはっとしたことがありました。私の息子が大学に通っていたときのことなのですが、大学生というのは必ず生徒たちの中でグループができるんです。日系人は日系人でまとまったり、ドイツ人はドイツ人で集まったりというようにです。その中で、どうしても日系人のグループに入らない日系人の生徒もいるんです。どうして日系人のグループに入らないのかというと、「自分はブラジルで生まれたブラジル人だから日系社会は関係ない」という強いブラジル人の意識を持っているからなんです。

 3世や4世になってくると、全く日系人としての意識がない、あるいはそれを敢えて捨てている人たちも結構います。そういう事実を息子から聞きました。日系社会に近寄らない人たちが、なぜブラジル社会だけで生きていこうとしているのかという理由を調べれば、我々も何かを学べるんじゃないかなと思います。

 日本文化の基本は、やはり道徳観のような精神文化だと私は考えています。そこから発生するスポーツにしても芸術だとしても、根底にあるのは日本人が生まれ持った精神です。その部分をどうやったら日系社会に近づかない人たちに伝えていくか、もしくは意識させるかということが一番大切なのではないかと思います。
 ではそれを実際にどうやっていくべきか、ということをこれから1年間をかけて、このサンパウロ新聞の座談会で皆さんとともに考えていきたいと思っています。

 塩沢次雄(1世)
 私は過去にモンテアルトのドトール・アダウトについての原稿をサンパウロ新聞に投稿させていただきました。彼は1928年以来モンテアルトに住み、およそ50年にわたって医者として日系人と苦楽を共にし、開拓初期に苦境にあった日系人農家の保健衛生に尽力されてきました。
 特に戦時中、日系社会が様々な制約による苦しい生活の中で土地を所有することができたのは、ドトールが「農家は土地を所有しなければならない」と考えたからです。日系農家が土地を所有して定着することはモンテアルトの繁栄につながるという強い信念で、日系農家が土地を所有できるように奔走された方であり、日系農家にとって忘れてはならない恩人であります。

 言語・風俗・習慣の違いから日系コロニアとブラジル人社会とは隔たりがあり、一体感がありません。自分たちの生活や仕事が、ブラジルの繁栄につながるという発想がないのです。日系農家は他に有利な土地があればすぐに移動してしまいがちでしたが、ドトールは日系人が立派な農地を作って豊かになれば、その土地に定着してくれるだろうという信頼を抱いてくれていたのです。コロニアはそのような期待に今後も応えて、自分たちの働きがブラジル社会の繁栄につながっているという認識を持つべきではないでしょうか。

 ドトールが日系社会にしたように、日系コロニアもブラジル社会に入り、それぞれの仕事でブラジルの繁栄のために働く。これが日系コロニアがブラジルで生き残る目標であり、日系人がなすべき仕事ではないでしょうか。日系コロニアの各家庭の営みを正しく整えて良い子弟を育てれば、日系コロニアの子孫は良きブラジル人として社会に出て行くでしょう。
 ドトールはこの生き方を、その生涯を通じて言葉でなく行動で示してくださった方であります。私たちが、このドトールの志を忘れることがあったら「日本人は恩知らずの国民である」と言われても仕方ありません。現在のコロニアは1世をはじめ、体力も気力も弱まってきているので、若い世代の人たちでコロニアの将来を考え、協力しあっていただけたらと思います。(つづく、文責編集部)

阿部志朗、清原健児、伊東信比古(上、左から)
永田敏正、小山昭朗、塩沢次雄(下、左から)

 2010年2月6日付

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