【座談会】第1回「ブラジル社会に日系コロニアは必要か?」①

 田辺 豊太郎(1世)
 私はブラジルに来て82年になります。82年間もブラジルで生きてきたのだから、何とかコロニアに良くなってもらいたい。皆さんの意見をこの場で聞くことは大切ですが、地方にも日系の団体があります。この場で出た意見はきちんと地方にも届け、全伯で考えていくべきではないでしょうか。

 ブラジルには世界最大規模の日系人がいます。これだけの数を有し、しかも100年という歴史があるのだから立派なものです。文協の会長など多くの役職を2世が占め、世代は移り変わってきています。しかし、幸いにして今回のような場に大勢の人が参加するということは、やはり日本人としての意識が根底にあるからです。

 日系コロニアとは何なのか?ということを追究していくと、その起源は日本人、日本民族ということになります。「エウ・ソウ・ブラジレイロ」と言いますが、日系人の起源は日本民族なんです。日本というのは何千年という歴史の中で生まれてきた国です。私たちの父親や祖父の世代の先輩たちは、幸いにしてブラジル社会で活躍してくれました。

 「日本人の恥になるようなことはするな」というのは、皆さんが随分聞いてきた言葉なんです。何で父親たちがフィロゾフィーを持っていたのか。それは何千年の歴史がある国であればこそ、こういう思想ができたのではないでしょうか。

 ブラジルは多民族国家で、それぞれの民族はいいものを出し合ってこそ、ブラジルが良くなる。つまり、日系人には伝統ある日本の文化を広げてもらいたい。そういう日本の文化を2世たちに継承していく義務が、我々1世の世代にはあるのではないか。継承できるような働きをやっていかなければなりません。

 文協の木多会長に「この座談会は、文協がやるべきことをサンパウロ新聞がやってくれている。文協はこの活動をアジューダするのは当然のことではないか」と冗談まじりに話しましたが、基本をはっきりすることが大切です。文協はあくまで文化団体。日系コロニアで一番必要なのは文協です。

 コロニア全体で、日系とは何なのかを考えていただきたい。次の100年に向かって何をやるべきか、という考えを持ってもらいたいと思います。全伯の日系団体が一堂に会して動いていかなければなりません。今一番問題になっているのは日本語の問題です。「言葉を失った民は滅亡する」という言葉があります。言葉が大事なのだということを念頭に置いて、皆さんがそれぞれの所属団体で考えてほしいです。

 移民100周年の後から見て、全伯で地方団体がいろいろ活動しており、アマゾンや聖南西のほうがきちんと機能しています。これは立派なことです。根底にしっかりとしたものを持っているからです。これを基本に、日系コロニア全体でしっかりやってほしいと思います。
 

 森 和哉(1世)

 日系社会を守っていくために、どう守っていくのか、そしてどう変えていくのか、あとはどう捨てていくのか、という三つのバランスが大切だと思います。どれか一つに偏っても駄目だと思いますし、何かを守り通していっても結局後に続かないかもしれないし、変えすぎても今の日本のようにぐちゃぐちゃになってしまう。すべて捨ててしまえば、もう日系社会の意味はなくなってしまう。このバランスをどうするかという点については私にはよく分からないので、皆さんのご意見をお聞きして勉強したいと思っています。
 私事で恐縮なんですが、私は剣道を25年間続けてきました。これを例に少しお話をさせていただければと思います。今、実は剣道も日系社会と同じような状況を迎えているんです。昨年サンパウロで世界大会があって日本が優勝しましたけれど、世界化ということで、スポーツ剣道になっていくのか、それとも伝統を守っていくのかということで、日本の選手もすごく迷っているところなんです。
 単なるスポーツでいくと当然世界に広がっていくんですが、やはり体格の大きい人が勝ちますし、ポイント制になってしまうと日本の伝統だとか、剣道にもともとある理念といったものが度外視されていってしまう。本当にこれでいいのかという思いがあります。
 私もこちら(ブラジル)のある道場で剣道をさせていただいているんですが、そこで一つ気づいたことがあります。その道場はとても活気があるんですが、以前たくさんのブラジル人が剣道を習いに来るようになったんです。その理由の一つが、数年前に公開された映画『ラスト・サムライ』を見てブラジル人が格好いいと思って入ってきたんです。
 しかし、その道場ではまず礼儀作法から教えるので、1か月もしないうちにほとんどのブラジル人が辞めてしまったんです。私はそれを聞いて、すごく真っ当だなと思いました。剣道を上っ面だけ理解して、ただやってみたいというものではなくて、ちゃんと礼儀作法から教えるということ、これは素晴らしいことを先生方はされたなと思いました。
 その一方で、その道場では練習中は一切水を飲んではいけないという決まりがあるんです。これは日本でも昔はありましたけれど、現在は日本でも行われていません。水を飲まないというのは科学的にも体に良くないし、昔は精神力ということで「水を飲むな」という一つの教えだったと思うんですけれど、現在は水を飲まないと体に悪いということが判明していますんで、「飲むな」と言い続けたばかりに大変有能なブラジル人が辞めてしまった。これが今回のコロニアのテーマにも通じる部分だと思います。

 必要なものは当然残していかなければなりませんが、時代が変わって合理的でない部分などは変えていく、あるいは緩めていく必要があるのではないでしょうか。

 森 瑞恵(1世)
 私は日系人の存在に非常に感謝しています。駐在2年目になるんですが、まだポルトガル語もろくに話すことができず、英語もそれほど得意でない私にとって、いつもアジューダしてくださるのが日系人の方々であり、日系コミュニティーに属する方々なんです。 (つづく)
写真:座談会全体
写真:田辺豊太郎さん、森和哉さん、森瑞恵さん(左から)

 2010年2月3日付

コメント0

コメントを書く

Login

Welcome! Login in to your account

Remember me Lost your password?

Lost Password