第4回「日本語教育の将来を考える」②

 パネリスト 植西晶子氏
 ブラガンサ・パウリスタ市は聖市から約90キロの場所にある、人口約15万人の地方都市です。日系人の家庭が約450世帯あり、その中で約150世帯が日本人会の会員になっています。やはり日本に出稼ぎに行っている家庭も多いようです。
 ブラガンサへの移住は戦後に始まり、1951年に創立された「奨学舎」を寄宿舎として中高生を住ませて、そこから子どもたちが町の学校に通っていました。生徒たちはブラジルの学校から帰ると、毎日教師たちに日本語を習っていました。その後、55年に日本人会が発足して今年で55周年を迎えます。私はそこで95年から日本語教師をさせていただいております。

 現在、生徒は約50人で、近年は中高生の割合が増えてきています。自分から日本語や日本文化に興味を持って入ってくる生徒が増えてきていて、そういう生徒たちが大変優秀で頑張っています。日系と非日系の割合は、両親ともに日系、混血の日系、非日系がそれぞれ同じくらいの割合で在籍しています。傾向としては非日系が少しずつ増えています。

 各年齢における日系の割合では、児童は日系の割合が高く、中高生になるにつれて混血の日系や非日系の割合が高くなってきます。これは、幼い児童については日系の親たちの希望で始める場合が多いからだと考えています。中高生になると、非日系でも純粋に日本語に対する興味を持って、自発的に勉強したいと考える生徒が多いのが特徴です。成人になるとまた日系の割合が高くなります。これは例えば出稼ぎから帰ってきた人がもう一度勉強しなおしたいとか、幼少期に少し勉強したけれど、読み書きなどを大人になってからきちんと勉強したいという人が多いようです。

 継承日本語教育として取り組む三つの活動
 私たちの学校では「継承日本語教育」に取り組んでいますが、この「継承日本語教育」という言葉は、最近よく日系社会の教育を語る上で使われるのですが、「継承」と言うと何か古臭い、昔の日本式の考え方をし続けているというイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、そうではなくて、継承というのは日本語の語学だけではなく、先ほど谷さんがおっしゃられていたように、日本の良さや日本の文化を教育の中で伝えていこうということなんですね。

 私たちが実践しているのは、(1)「日本文化」「日本事情」を取り入れた活動、(2)「日系人」としてのルーツを意識させるための活動、(3)地元日系人社会との連携を深める、以上の3点を目的にして活動を続けております。
 (1)については、大半の日本語学校で実施されていると思います。ひな祭り、七夕等の年中行事に書道、折り紙、童謡や踊りなど、学校側が一つの活動として行っているものです。大事なことは、ただそれを授業内でやるだけではなく、発表の場を設けてあげることだと思います。いかにして父兄や文協の方々の理解を得るか、日本語学校の方針を知ってもらうために発表の機会を作っています。

 私たち教師が心がけているのは、非日系の学習者の父兄にも理解できるための手助けを必ずすることです。発表会などで100パーセント日本語だけでやってしまいますと、非日系の父兄には理解してもらえず「全然面白くないからもう来ない」ということになって、日本語学校から離れていってしまいます。ですから発表の時にも、生徒に話させるのは日本語ですが、教師がポルトガル語で説明をしたりパンフレットを作成して非日系の父兄にも面白いと思っていただけるような工夫をしています。また、ブラジルでも人気の高いアニメ、漫画を入り口として日本語の勉強を始める生徒も多いので、そういったものを通じて日本人の生活や習慣への関心を持ってもらうように取り組んでいます。

 続いて(2)の「日系人」としてのルーツを意識させるための活動ということで、2008年の移民100周年記念行事を通じて移民に関する学習を行うようになりました。実はブラガンサ校では05年からこの活動を行っているのですが、そのきっかけになったのが私の子どもが幼稚園で「あなたのおじいさん、おばあさんについて調べてみましょう」という宿題を出されたことでした。祖父母がどこから来て、その民族のどのような文化を家庭で実践しているかを祖父母に聞いて発表するものだったのですが、ブラジルの学校でもこういう活動を行っているのに、どうして私たちの学校で今までやっていなかったんだろうとハッと思い、私たちの学校でも取り入れました。

 次に(3)の地元日系人社会との連携ですが、ある父兄の方とお話をした際に、これから30年後、あるいは50年後に自分たちの日本人会は続いているだろうか、そしてそれは今の日本語学校でどの程度子供たちが日系人であるという学習をしているかにかかっているのではないか、という話になりました。学校側も確かにその通りだという認識で、日系人社会と手を取り合っていかなければならないと思い、様々な活動を始めました。まず日系社会への帰属意識を高めるということで、様々な日本人会の行事に参加するようにしました。その他にも日本語学校の生徒、元生徒が中心になって40年ぶりに結成された「青年会」と協力しあって行事を行ったり、地元の日系人の方に日本文化の授業に参加してもらうなど、地域社会との連携を深める努力を続けております。

 

 非日系の生徒が良い影響を与えている
 私がブラガンサ校で教え始めた当時は、ほとんどの生徒が日系人でした。10歳くらいまでの児童は親に連れられて通っていた生徒が多かったため、ちょっとしたことですぐ飽きてしまう傾向があったんです。それが10年ほど前から非日系の生徒が増えてきました。非日系の生徒は自分の意思で来ているので勉強熱心な生徒が多いんです。というのは、ブラジル学校でもある程度良い成績が取れていて、日本語の勉強をする余裕がある生徒であったり、または他国の文化に興味を持てるだけの精神的余裕のある生徒が来ているためだと思います。非日系の生徒は成績も優秀なため、日系人の生徒が積極的になったり、学校を辞める生徒が減少するなど、大変良い影響を与えています。

 また、非日系の生徒が友達の日系人を学校に連れてくるという現象も増えてきました。日系人の中学生くらいの子どもたちは、親に「日本語学校に行きなさい」と言われると反発するのですが、非日系の友達に「僕は日本語を勉強しているけれど面白いよ。君は日系人なのにどうして勉強しないの?」と聞かれると、「確かにそうだな」と思って勉強を始めることもあるのです。さらに発表会などでも、日系人の生徒は消極的で尻込みする傾向があるのですが、非日系の生徒は人前で堂々と発表する子どもが多いので、そういった部分でも影響を受けて日系人の生徒が発表を好きになるなどの良い影響をもたらしています。

 また、ブラガンサ校では継承日本語教育の一つとして「移民学習」を行っています。日系の生徒には自分のルーツを知ってもらい、日系ブラジル人としての自覚の誇りを持ち、日系社会との連携を深めてもらうことを目的とし、非日系の生徒には自分のルーツを知ってもらい、さらに日系人の歴史や考え方を知ってもらうことを目的としています。私たちの学校ではこの移民学習において、日系と非日系を隔てて行うようなことはしておりません。

 日系でも非日系でも、家族の歴史を通じて自分のルーツに興味を持つことができるからです。最近の子どもたちは、家庭内に祖父母がいても家族のルーツについて話したりする機会が少ないんですね。ですからこういう宿題を与えることによって、家族とのつながりを深めることができるんです。生徒側からも、インタビュー、写真集めなどの過程を通じて、祖父母からいろいろと昔の話を聞き、交流することができたという感想が多く出ていましたし、発表の際には映像を同時に見せたのでイメージがはっきりし、日本語が分からない父兄や生徒にも伝えることができたと思っています。

 06年には「わたしたちの町ブラガンサ・パウリスタ」というテーマを決め、自分たちの住む町を知る授業を行いました。自分の町の歴史と、同じ地域に住む日系人の歴史、そしてその日系人がどういう貢献をしてきたかを知ることによって、では自分たちはどういう貢献ができるかということを生徒たちに考えさせる目的で実施しました。

 まずは自分の町に関する資料集めをさせて、それを基に劇の台本を制作し、発表会を開きました。この時もやはり日本語を話せない父兄のために日ポ両語でナレーションを入れたり、途中でクイズを入れたりして飽きさせない内容作りを心がけました。劇の発表は、日本語で話せたり人前で発表する力をつけさせるという狙いだけでなく、全生徒を一堂に集めて練習を行うため、学校としてのまとまりや年齢の違う生徒同士の交流を深めることも目的としていました。

 移民100周年にあたる08年には、家系図作りや1世の方へのインタビュー、ドラマ『ハルとナツ』を見てからその撮影の舞台となった「東山農場」への遠足を行うなど、様々な活動を行いました。移民の歴史と日系人の未来がテーマの「100年の夢」と題した劇を行ったのもこの年です。また、日本人会が初めて開催した日本祭りで折り紙や書道、金魚すくいなどのブースを設けたり、よさこいソーランや盆踊りを披露したりと活躍したことで、日本語学校の生徒であることの誇りを少しでも感じてもらえたのではないかと思っています。

 日本語学校が日系社会存続のカギを握る
 日本文化をどうすれば生徒たちに良いと思ってもらえるかという問題ですが、やはり押し付けてはいけないと思うんですね。「あなたたちは日本人の顔をしているんだから、日本式のやり方をしなさい」と教えてしまうと、どうしても反発されてしまいます。生徒が自分たちで「日本文化は面白いんだな」「日本はかっこいいんだな」と自然に発見してもらえるような形が理想的だと考えています。そのためには日系人だけを集めるのではなく、非日系人にも参加してもらう必要があります。外からの目線で日本文化や日本的価値観を認識してもらうことによって、日系人の生徒も「今まで身近にあった日本文化の良さにどうして気づかなかったんだろう」と発見できるようになるからです。

 私は日本語学校が、将来も日系社会が存続するためのカギになれるのではないかと思っています。反対に、日本語学校がなかったら数十年後の日系社会はなくなってしまうのではないかとも考えています。そのためにも、青年会や日本語学校がどのように日本人会の行事に参加していくかを考え、日本語学校が地元の日系人とどのような交流を深めていくかを考えなければいけないと思います。(つづく、文責編集部)

写真:ブラガンサ日本語学校教師の植西氏
2010年6月8日付

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