【座談会】第4回「日本語教育の将来を考える」終

――JICAや国際交流基金などの支援がなくなったときに、果たして日本語センターは続けられるのか?
 センターにとっては非常に厳しい質問です。みなさんにお渡しした当センターの事業内容の資料(右表1)の中で「※」のついたものが助成事業なのですが、一番上の汎米日本語教師合同研修会、これは海外、特にカナダ、コロンビア、ドミニカ、アルゼンチン、パラグアイ、ペルーから約15人が日本語教育に関する研修を受けに来るのですが、もし助成が打ち切られた場合には、この研修をセンターで続けることができません。ただしこの汎米研修は、移住者支援という形で行われている支援ではありませんので、今までこれが仕分け事業のまな板に上がったことはありませんので、なくなると言われてはいますが、このまま続けられるだろうと考えています。

 通信日本語講座は現在16人の生徒が受講していて、これが一番支援額が少ないためにセンターの負担が大きかったものです。しかし今年から受講料を2倍に上げたにもかかわらず、16人の生徒が参加されたので、これは頑張れば黒字にできるのではないかと見ています。
 日本語教師養成講座も今年18人が受けることになりましたし、幸い優秀な日本語教師たちが教材を作っておりますので、事前にそれほどお金がかからずに済むため、何とか続けられると思っています。

 JICA継承日本語教師研修送り出しは助成事業になってはいませんが、センター自体が行っています。助成事業ではなく委託事業なので、この委託事業はなくならないだろうと言われています。しかし委託事業をやっている研修自体がなくなることになれば、この研修も継続が難しいです。この研修は横浜で行っているもので、同研修の送り出しと書類選考は助成金なしでやっているのですが、送り出しをしているのはサンパウロだけではなく、ベレンやブラジリア、ボリビア、パラグアイからも研修生を送り出しています。これに関しては、もし仕事がなくなることがあっても、センターには関わりはありません。送り出しもセンターが独自にお手伝いをしているという立場になります。日本語学校、教師実態調査というのも、非常に金額が少ない上に、現在はインターネットを通じてほとんどの学校とネットワークができていますので、これは続けられるだろうと考えています。他にも子ども日本語テスト作成などがありますが、教材を作るだけでお金をかけずにできますので、生徒さんからいただいているお金を上げれば続けられる。

 そういう意味では厳しくはなるけれど、これからの努力次第で事業を続けることが可能です。日本側は助成を打ち切ると言っていますが、あと3、4年はかかるでしょう。あまり先読みをしすぎるのではなく、現状で何ができるのかを考えていけば、決して事業全体がなくなるものでもありません。

――教師の立場からは日本語センターをどのように捉えているか?
植西 センターは絶対に必要な機関です。私たち教師は日々勉強していかなければいけません。そのためにセンターで教師養成講座をはじめ様々な講座をしていただいていますので、ブラジルで日本語教育を続けていくためにもなくてはならないものだと思っています。

 もちろん教師に対してもセンターは必要ですが、学習者を対象に行われているイベントでは、特に生徒たちに人気があるのが「ふれあいセミナー」と「ふれあい日本の旅」なんですね。これは非日系の生徒でも参加できるプログラムなんです。例えばJICAでは優秀生徒の生徒研修を行っていますが、これは日系あるいは混血の生徒でなければ参加できません。もう少し年齢の高い生徒ですと、日本の県人会の留学制度がありますが、これも日系人に限られています。非日系の生徒は、「何か自分たちが参加できるプログラムはないのか?」と、いつも尋ねてきます。この二つのイベントは私が教えている学校でもたくさんの非日系人の生徒が参加していますし、参加した生徒からは「先生、来年もぜひ参加したい」という声が多く、非常に人気があります。他校のやる気のある生徒たちと交流することによって、さらに学習の意欲を高めてくれる良いプログラムだと思います。

 また「ふれあい日本の旅」では、2008年に私たちの学校からも4人の生徒が参加しましたが、日本中いろいろな場所に連れていっていただきました。生徒たちは皇室訪問やホームステイ、学校見学などを通じてたくさんのことを学んで帰ってきました。08年に行った生徒のうち一人は非日系の女の子なんですが、今年サンパウロ州立総合大学(UNESP)の文学部に入学しまして、将来は日本語を生かして通訳者になりたいと言って頑張っています。こういう良いプログラムはぜひ続けていただきたいと思っています。
谷 植西さんの話を聞いていて一つ思い出したのですが、日系の小学校、中学校と比べて今一番入りづらいと言われているのが幼稚園なんです。日系人の子どもが父母を尊敬したり、規律を守ったりする教えが日系の幼稚園で教えられていることが、ブラジル社会でも注目を集めるようになってきたためだと思われます。

 実際に幼稚園に行ってみると、普通はファシネイラ(清掃婦)がいるのですが、日系の幼稚園では自分たちの食べた後のお皿を洗うということを幼稚園の頃から学ばせている。それはサンパウロに限ったことではなく、ベレンなど伯国中に広がっています。当センターではそのために児童心理学のコースを定例勉強会で入れたり、幼稚園の先生養成も行ってきました。

――地元の日系人会そのものが衰退していて、
そこが経営している日本語学校もガタガタになっているという話も聞きますが?

植西 ブラガンサ・パウリスタ市は聖北西地区に属しているのですが、経営がうまくいっている学校は文協と父兄会と教師のコミュニケーションが緊密に取れていて、力を合わせて取り組んでいます。中には日本語学校の経営が悪化してなくなりそうだという話も、私の地区に限らず聞くこともありますが、多分そういう学校は、外部の非日系の方を入れなかったり、会員の方でなければ教えないという方針にこだわっている傾向があるかもしれません。そういった学校は生徒が減少していくために、長続きしないのではないかという話を聞いたことはあります。
――今後は成人が対象の日本語教育がメインになるのか?
 ブラジルでは約2万人が日本語を勉強しているわけですが、これは非日系も入れて2万人という数字です。ブラジルだけが教育機関で教えている教師の割合が3割を切るんですね。残りの7割は日系の学校です。例えば文協内の学校であったり、助成金などの支援を受けて日本語を教えていたり、個人で私塾を開いたり、あるいは松柏学園や赤間学園といった日系色の強い学校で教えています。

パネルディスカッションが行われた会場 ところが他の国では逆なんです。例えば現在日本が進めようとしている桜プロジェクトというものがあるのですが、世界に100か所の拠点を作ることによって、そこから日本語を世界に広めていこうというものなんですね。その学校、あるいは機関を見ると全部大学です。ブラジルの場合はたまたま移住者がブラジルに来たという歴史があるため、他国とは状況が少し異なります。

 ただしブラジルにおいても、日系人のみならずブラジル人も自ら進んで日本語を勉強する時代になってきています。ところが問題は、日本語を教えられる教師が足りないことです。この問題を解決することが大事です。また、成人教育であれば月謝を払ってもらって経営をすることが可能です。例えばアリアンサでは約1600人の生徒が日本語を勉強しています。借りている建物の家賃も高く、生徒が入りきれないため、現在は校舎を建てる土地を探しているということで、成人教育においては今後もさらに生徒が増加していくのではないでしょうか。

 地方の文協が衰退しているという問題については、出稼ぎが始まると同時に起こった問題だと考えています。地方の農村に行くと「働き手がみんな日本に行ってしまった」「文協がなくなってしまって、高齢者しか残っていない」という話を聞きますが、出稼ぎによる人口流出はもう落ち着いてきているので、これ以上減ってしまうということは思い込みすぎではないかと私は思います。日本語が上手な子どもがたくさん帰ってきていますので、むしろその心配はないのではないかと思います。

植西 サンパウロ、パラナ州近辺では現在、子どもの学習者が多いのですが、ブラジリアや、リオ、ベレンなどになると大学生以上がほとんどで、しかも非日系が90%くらいを占めるのではないかと思います。時代の流れというものがありますから100年後のサンパウロ、パラナの日本語教育がどうなっているかは私には分かりませんが、成人が日本語を勉強しようと思うかどうかというのは、日本の経済状況に左右される部分もあると思います。

 ただし、子どもに対しての日本語教育は、経済状況よりも、もっと日本文化の良い部分をブラジルの人たちに良いものだと分かってもらえるかどうかが重要になると思います。ですから私たち教師や文協の人たちが頑張って、そういう良さを伝えられるように努力していかなければいけません。

 谷さんがおっしゃっていた教師不足という点についてですが、教師になりたいと思っている人が続けていけるためには、教師に対する待遇改善が必要だと思います。日系団体であったり学校を経営する方々に理解していただいて、教師があまり生活の心配をせずに、自分のレベルアップのための勉強や、授業の準備に打ち込めるような環境づくりをしていただくことも必要ですし、そういう部分を分かっていただくための努力も教師側でしていかなければならないと思います。

――日本語センターでは今後、継承日本語教育を進めていくのか?
 私が当センターに入った当時は、継承日本語としての日本語教育か、あるいは外国語としての日本語教育かという議論が続いていました。日本人ならば継承日本語という形で、素晴らしい日系人を作るべきだという意見もあったのですが、この4、5年は、もうその議論がなくなり、日本語自体に日本文化が含まれているのではないかという結論に落ち着きました。

 日本語を教えるということは、例えば「ありがとう」「もったいない」など、そういう言葉自体に日本の精神が入っていると考えられます。言葉自体に日本文化がありますので、日本語の文化をブラジル人にもっと理解してもらうような努力をしています。
 ただし、議論に時間を費やすのではなくてもっと現場でそういう活動を続けなければいけません。センターが特に力を入れているのは、生徒に喜ばれるような、やる気とモラルを持った教師を作ることです。ほとんどの教師はブラジルで日本語教師としての教育を受けていないので、その部分での積み上げをサポートすることがセンターの役割だと考えています。(おわり、文責編集部)

写真:日本語教育の将来について討論する谷氏(右)、植西氏
写真:パネルディスカッションが行われた会場

2010年6月9日付

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